ルビーちゃんの野望
<このエッセイと画像はは2000年ごろ、新書館Wings「ペット様のお通り」に掲載されたものです>


長年猫飼いだったので、犬を飼った途端、猫友だちから裏切り者呼ばわりされたが、本来わたしは犬猫両刀派である。

しかしなるほど、犬猫をいっぺんに飼ってみると、両派がまっぷたつに分かれるのもうなずける。犬猫がお互い相いれないのは元より、飼い主の接し方も正反対。
いわゆる猫なで声は犬には通用しないし、犬に使うような軍隊式の発声だと、猫はびびってしまう。
嘘か誠か、相手が犬の時は、飼い主はふんぞりかえっていないといけないらしい。そうしないと上下関係がぐちゃぐちゃになり、集団階級制に生きる犬はかえって混乱をきたすのだそうだ。

うちでは階級ピラミッドの頂点にいるのがわたしで次が息子、その次がルビーだ。
息子に怒られるとルビーは横目でわたしのほうをちらちらと見、「お母さんを見るんじゃない!」といってまた怒られる。
元々ルビーはやせっぽちの弱虫な子犬で、他のどんな犬にも愛想がよく、飼って一年以上も怒ったところを一度も見たことがなかった。ところが生後15カ月を過ぎた途端、突然他の犬に対して偉そうな態度をとりだし、同じサイズの犬が彼女に腹を見せたりするようになった。

成犬になった彼女はなるほど大きな黒い狼で、命の危険もなくそんなのとプロレスごっこしている自分を不思議に思うこともある。
時々上目遣いで昇進の可能性をうかがうルビーにわたしは言う。
「トップドッグになりたいならなるのはいいけど、ルビーちゃんがお母さんを養うんだよ。たいへんでしょう?」。

ちなみにわたしは、動物に向かってたわごとを言うのが大好きだ。ある日、誰もいないはずの公園を彼女と散歩しながら、「ルビーちゃんてば凶暴。キョウボウっていうのは複数の人間が集まって悪だくみすることじゃないのよー」と、ふざけていたら、道を曲がったところのベンチでおべんと食べてた人が笑っていた。動物といるときは、世の中平和である。


<Photo&Illustration/Yasay Kemonogi>


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