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                  獸木さんちのフロイドちゃん 
                
                 
                 
                  
                   名前/ フロイド (1991-2010) 
                   性別/ オス 
                   ブリード/ペルシャが入っているらしい日本猫 
                   毛色/タキシード 
                   保護者/獸木&となりのドロシーさん 
           
                  フロイドちゃんはばかだ。 
                  どのくらいばかかというと、少し家から離れた場所でばったり会うと、飼い主でも顔を見て逃げてゆく。「フロイドちゃん!」と呼び止められて振り返り、もう一度じっと顔を見つめて、かなりの秒数を費やしてから、ようやく「ウニャニャ」と駆け寄ってくるくらいばかだ。 
                  フロイドちゃんはかわいい。 
                  頭が悪くて食べることしか能がないのに、なぜかかわいい。 
                  ふっくらふわふわだからか、いつまでも赤ちゃんみたいな声のせいか? 
                  いや、やっぱりばかだからかわいいのだろうか? 
                  フロイドちゃんは食いしん坊だ。 
                  彼の辞書に「満腹」という文字はない(辞書自体もありませんが)。 
                  どんな人間語も解さないのに、「ごはん」という言葉だけは覚えてる。 
                  飼い主の顔も覚えられないくせに、朝夕のごはんの時間には誰よりも正確に帰ってくる。 
                  さらにご飯を食べ終わっても、自分の皿の前で人間の夕ごはんのおこぼれを待ち続けている。 
                  時にはダイニングから人影が消えて、もう誰もいなくなっても待ち続けている。 
                  「ごはん待ち続けて石になって、日本昔話になっちゃうよ」 
                  と飼い主にに言われるほど待っている・・・ 
                  フロイドちゃんは「ちょうちょの番人」だ。 
                  猫は天性のハンターのはずだが、彼のハンティングの成功確認例は、なんと一件もない。 
                  鳥なんかは論外で、ひらひら飛ぶちょうちょを花壇で追いかける(だけで捕れない)のが関の山。 
                  お花に囲まれて、「きゃはは、きゃはは」とちょうちょとたわむれるその姿はメルヘンだ。 
                  夜這いの名手? 
                  フロイドちゃんはほとんど獸木と寝たことがない。 
                  獸木がサロニーと寝てたせいもあるが、いざいっしょに寝ようとしても、ふたりともなんだか落ち着かなくて、結局フロイドちゃんが部屋を出てゆくか、獸木が追い出すかしてしまう。 
                  そのかわり彼はお客さんやアシスタントさんが大好きで、誰かが泊まると必ず夜這っていたらしい。 
                  話によると、その迫り方がなかなか激しいらしく、雷のようなゴロゴロ音を発しながら、頭でもって、ゲンコツをぎりぎりぐりぐりするような勢いで果てしなくスリスリし、おふとんをニギニギモミモミして、眠りにつきそうになると耳元で小さく(しかし耳元だから拡大音で)「ウニャ」とささやいて起こすのだそうだ。 
                  これがえんえん30分も続く。 
                  でもって「じゃあまたな」と去りかけたと思って「やっと寝れる。」とホッしてると、「やっぱりまた来たぜ」ときびすを返して戻ってくる(そうだ)。これはしんぼうたまらん。 
                  やっぱりフロイドちゃんとは寝たくない。 
                  フロイドちゃんは入らない? 
                  フロイドちゃんは大きい。体も丸々大きければ、手足(?)も顔も目もでかい。口なんかサロニーの5倍くらいある。 
                  病気だった猫のハースが死んだとき、わたしはアパートの壁と塀のわずかなスペースの土の中に彼を埋めた。掘れる場所は、二本のバラの根っ子と根っ子の間の20センチくらいのすき間だけ。しかし、やせ細って骨と皮だけになって死んだハースはどうにかそこに収まった。 
                  嵐の日だった。例によって締め切り前だった。ハースに付き添って寝てなかった。 
                  へろへろになってハースを埋めて部屋に戻ってくると、お気楽なポーズで毛繕いをしているフロイドが目に入り、わたしは思わずなげやりに言った。 
                  「フロイドちゃんは入らないね。」 
                  ちなみにフロイドちゃんはハースが死んだことはおろか、ハースが寝たっきりで、サロニーと同じ黒猫だったためか、うちに自分の他にもう二匹猫がいるということもよく理解していなかったようだ。 
                  フロイドちゃんならただの「しみ」? 
                  うちにはサロニーの写真が額に入れて飾ってあるが、同じ写真をアルバムにも張ってある。漫画情報誌なんかにも載った、お気に入りの白黒写真だ。 
                  サロニーがオーストラリアで死んだ後、この写真のアルバムに張ってあるほうの、サロニーの右目あたりに、涙のように白い点が3つ浮き上がり、心霊猫とほまれ高いサロニー神話の終章を締めくくって、ふたたび飼い主の涙を誘った。 
                  いかな現象で写真の一部が白く劣化したかは定かでないが、神秘的なサロニーだからこそ、当然のごとくこれはあの世からのメーセージで、「彼はまだどこかにいるんだなあ。サロニーも別れが悲しかったのかなあ。カムバーック!!」などと思えるのだ。 
                  しかしわたしと息子は語り合ったものだ。 
                   
                  「でもフロイドちゃんだったらただのしみだよね。」 
                    
                  ○さて、上の文章は、知人へのメールを実は再編集したものだ。フロイドちゃんはかわいくておもしろいので、よく話題になる。写真なんかもよくネット上を飛び交っている。 
                  「フロイドちゃん日本昔話(メシのあとでも皿の前で待っている話)」を読んだホームページデザイナーのナカシマさんは 
                  「獸木先生のメールを読んで、ご飯を食べた後でも、何の疑問もなく『このお皿に僕のご飯が盛られるんだ』と見つめている姿を想像するだけで、後ろからぎゅーっと抱きしめたくなります。」 
                  と返信をくれた。 
                  フロイドの写真を見た知人ウキウキモンキーさんは 
                  「なんてふろちゃんってまるまるしておいしそうなんでしょう。 
                  思わずドロップキックくらわしちゃくなっちゃう湾!! 
                  いや〜んもうかわいい〜〜!これが、『いーてぃんぐましーん ふろふろ』とは思えないなりよ!!」 
                  とメールをくれた。 
                  ふたりの愛情表現の違いがよくわかる文章であった。 
                  
                  <1998年11月> 
					2006年8月追記/ ちなみに1991年から獸木に飼われているフロイドは2006年に約15歳を迎え、2000年からの猫エイズ発症をものともせず、獸木家の猫最長寿記録を更新中。 
						
					
					2010年6月追記/ フロイドは2010年5月15日に老衰にて眠るように大往生いたしました。約19歳。かわいがってくださった歴代アシスタントさん、編集者の方々、獸木家のお客のみなさん、メルボルンの隣近所のみなさん、本当にありがとうございました!フロイドからみなさんに思い出と、感謝のしるしの小さな幸せが届けられることでしょう! 
					  
						左はフロイドが死ぬまで、なぜかずっと獸木が携帯の待ち受けにしていた神々しいお写真。
		 
                /Photo by yasay Kemonogi
  				
					
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