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                  獸木さんち(と青山さんち)のフリス 
                
                 
                 
                  
                   名前/ フリス、またはニャンポコ 
                   性別/ オス 
                   ブリード/日本猫 
                   毛色/白地に黒のおかっぱ模様 
                   保護者/獸木と青山さん一家 
                   特技/メス猫と同棲すること 
                  フリスは、わたしが東京に住んで3匹の猫(サロニー、ハース、フロイド)を飼っていたころ、うちと向かいの青山さんのお宅でエサをやっていた半野良猫だ(ちなみに青山さんちでは「ニャンポコ」という名前だった)。うちでも、青山さんのところでも、家の中には入れていなかった。 
                  フリスは、うちにいた3匹の癖のある比べ、最初何の変哲もない猫に見えた。大人になってもあまり大きくならず少年ぽい容貌で、半野良のくせになつっこくて、全然アグレッシブでなく、どっちかといえば目立たない存在だった。 
                  ところが、いつからか、彼はメスの小猫と暮らすようになった。青山さんが前庭に置いてくれた猫トイレの中で、いつもその小猫と仲むつまじくくっついて寝ている。 
                  獣医さんによれば、去勢していないオスの野良が子猫を殺すことはあっても、子育てなんていうのはありえない話という。しかも本当かどうか、近所の人の話だとフリスはまだ歩けもしないその小猫を、口にくわえてどこからか持ってきたのだという。 
                  「お嫁さんを育ててるのかしらね。」とその人は言う。 
                  いったいどういうつもりか、猫に聞いてもわからない。 
                  しかしとにかく、フリスは隅に置けない奴ということに、我々は気付き始めた。 
                  うちではその小猫をビアトリスと命名し、長ったらしいので主に「ビーちゃん」と呼ぶことにした。 
                  ビーちゃんが妊娠可能時期に達したとき、青山さんのとことうちでお金を出し合って、彼女に避妊手術をほどこした。 
                    
                  フリスとビーちゃん(1号) 
                  /Photo by Yasay Kemonogi 
                  
                  ところがその数カ月後、またまた妙なことが起きた。 
                  ビーちゃんが姿を消し、彼女に代わってビーちゃんそっくりの色形の、彼女より年長のメス猫が、ビーちゃんとまったく同じようにフリスと暮らしだしたのだ。 
                  しばらくして、ビーちゃん本人は、近所の少し離れたところで自活しているのがわかった。 
                  わたしたち人間は、実は今フリスと暮らしているメス猫が元々彼の奥さんでありビーちゃんのママで、成人した娘を追いだしたのだろう、などと推測したが、真相は不明である。 
                  フリスは少年みたい子供っぽい顔で、涼しげにカマトトるばかりである。 
                  名前だってフリスのくせに、女を取っ換え引っ換えふたりも囲うとは、猫はみかけによらない。 
                  こんな調子だと、また相手が代わる可能性もあるので、わたしは手抜きをして、あとがまのメス猫を「ビーちゃん2号」と呼ぶことにした。 
                  オーストラリアに引っ越すとき、わたしはフリスを青山さんに「よろしくお願いします」と託して、彼に別れを告げた。 
                  きっと今でも、一見うぶそうな顔でドンファンしていることだろう。 
                  猫もいろいろだ。 
                  <1998年12月> 
                    
                  小猫の時のフリス 
                  /Photo by Yasay Kemonogi 
                  
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