NO.10 「映画どあい好き/ファイブスター編」 1999年5月号

「髪切ったんだー」というキャプションで一コマ漫画を描く、漫画口座課題の課題作。
近況:

もいっぺん学校へ行け!/
去年の暮れ、英語専門用語の勉強をかねて、アダルトスクールの漫画6回講座に行った。
日本でもかれこれ20年(!)ほど前一年漫画の学校に行ったが、初め生徒同士で似顔絵を描いたり、生徒の層がバラバラで、なんとなく漫画チックなキャラクターが多かったりするところが同じでおもしろかった。
生徒にはおまわりさんなんかもいて、みんなにいろんな死体の話をしてくれた。
課題ではそれぞれオリジナルのキャラクターを作って、新聞用のコマものを描いた。投稿のしかたや自費出版の方法まで教えてくれた。
わたしは「ミスター・チキン」というマッチョマン・キャラ(チキンは弱虫の意)を作って、ブラックギャグを描きました。

これがミスター・チキンだ!キャプションを渡され、それに合った表情を描く課題作品
これは「キャラクターががっくりしたところを描け!」という課題のミスター・チキン

THE WORLD「ルビー・ブラック」のCG用元原稿を受け取った、日本で原稿を預かってくれている友人ケロちゃんの素朴な感想/
「ほんとに線しか描いてないんでびっくりしました。」

オーバーワーク?/
「ルビー・ブラック」CG用元原稿をかろうじて全部読み込んだあと、ついにスキャナがこわれた。サイズの大きな原稿を高解像度で読み込んだため負担が大きかったらしいが、よくよく考えればわたしの作品にしては短い方の76ページ中編。PALMなんかをCG化した日には・・・?

●壊れたスキャナを修理に出したら、元気になって、手書きでニコちゃんマークと確認番号の書かれた小さなかわいいシールを貼られて帰ってきた。

最近燃えていること/
50歳以上のセクシーな男性を描くこと

運命/
西暦2000年を前にして、ロサンゼルスにPALMの取材に行くことになった。時期は、なんとちょうど「あるまげどん月」にかかる。
ちなみに、ロサンゼルス訪問は、だいたい10年に一度のペースでこれが三度目。
10代の時の一度目の訪問の時には、旅行中にロッキード事件が起こって、帰ったら両親が離婚していた。20代の時の二度目の訪問の時には、英語がしゃべれることに気付いた。
今度は何が起こるのでしょう?幸運を祈ってください。

ミスター・チキンに登場する性格の悪いニワトリ。日本名「ニワトリャー!」




「映画どあい好き/ファイブスター編」

ご存知の方、うすうす感づいてらっしゃる方も多いらしくて、よく「どんな映画を観るんですか?」と問い合わせをいただきますが、その通り、わたしは映画大好き人間です。
元々本でも何でも「くだらんものは読まん!」という気難し屋さんですが、映画だけはなぜか、かなりしょうもないものでも「バカヤロー!」とか言いながらおもしろがって観てしまうくらい好きです。
そこでこのBIGCAT NEWSで、かいつまんで、好きな作品をみなさんに打ち明けたいと思います。
好きと言っても、前文のようにピンからキリまで好きなのですが、まずは「第一級作品」から行ってみたいなと思います(これ1回で終わるかも知れないし)。

試しに好きな作品を、娯楽作品やその他ジャンルも入れてざっとリストアップしてみたら、娯楽作やB級作品なんかは日本でも定番なものと合致しているのに、A級クラス作品となると、なぜか外国では定評があるのに、日本ではベストなんとかにあんまり入ってないものが目立ちました。
もちろんこれはわたしの主観(と最近の記憶)で選んだものなので、他にも色々素晴らしい作品はあるでしょうから、「あの名作が入っていない!」と怒らないように。また、例えばチャップリンの「独裁者」とか、名作の中でもスタンダードに入っているものは、もう語り尽くされてるでしょうから、ピックアップしないでおきました。

とにかくどれも見終わったあと、口から火を吐きながら土砂降りの雨の中を走り回りたくなる(なぜ?)ほどの比類なき大感動作品です。もしかしてまだ観てなくて、ビデオ屋さんで借りたい人のために、監督と主演者名は書いておきました(ジャンルも入れておきましたが、これはビデオ屋さんの分類とは異なります)。

「すぐれた作品」の条件としては、昔から「テーマなどのメッセージ性と、シナリオなどの頭脳面、映像音楽などの技術面が三拍子揃ってる」とか、「有用な教訓がある」とか「商業的なあさましさから逸脱している」とか「主役はもちろん、わき役端役がいい」とか、それらありとあらゆるものを備えた上で「作り手のテンションが高い」(でもただ単にテンションだけが高いのはダメなようです)とか、いろんなことが言われていますが、今自分が選んだのをざっと見て気付いたのは、めっちゃ不正確に伝わりそうな言い方だけれども、「正義が勝つ」か、「勝たなくても正義を貫く」あるいは「貫けなくてもなんとか貫こうとした」話がほとんどだという点です。正義の部分を真実とか信念とか愛とかに変えてもよいでしょう。

これが名作の条件なのは、人間が根本的に善良であるかぎり変わらないベーシックなんじゃないかと、たった今思いました。
時代と共に変わっていったり、あるいは人によってそれぞれ違うのは、正義や真実の基準だけ。
そして今が「名作の生まれにくい」時代と言われているのは、それが混沌となってきて、誰にでも感銘を与えられる真実を描ける創作者や、また誰にでもわかるはずの真実が描かれていても、それを感じ取れる受け手が、がんがん減ってきているということなのでしょう。

さらにややこしいことに、優れた作品のもうひとつの条件は、「人間やものごとの明暗両面がきちんと見据えられている」「善悪の観念がはっきり分かれていない」というところにもあるようです。いやあ、こいつはお手上げですな。

それだけに、これらの難関を突破した以下の作品の価値は希少。
作品をじっくり何度も楽しませてもらうと同時に、作り手の勇気と情熱、意志と行動力を、この機会に存分に讚えたいと思います。

「ブレイブハート」
ジャンル/歴史戦闘もの
監督/メル・ギブソン
主演/メル・ギブソン

メル・ギブソン監督主演の時代戦闘もの(?)。と聞くと、「なんだそりゃ?」とお思いでしょうが、「これを観て泣かない奴とは友だちじゃなくてもいい」と思ったほどの名作。
観たら「うおおおーーーーー!!!」と叫びます(かどうかはわかりませんが、わたしは叫びました)。絶対おすすめ!!
メル・ギブソンとソフィー・マルソー以外は見たことない役者さんばかりだだけれど、どの人もはまり役ですごい!
特にロバート・ブルース役の人の優柔不断と葛藤の演技、悪者のエドワード王の役者さんの演技はもう立派。でもってわたしのお気に入りのキャラクターはアイルランド人のスティーブン。マッドなキャラが、いいのです。

この映画をすがすがしく見終わったあとで「トレインスポッティング(時代は離れてるがブレイブハートもトレインスポッティングもスコットランドが舞台)」を観て、「俺たちは(いまだに!!!!)イギリスの家来じゃないか」なんて言うセリフを聞いて、ちょっと世紀末を感じてしまったりしまいましたが、まるで日本の漫画界のようなハリウッド映画の量産体制の中で、こんな情熱とテンションの高さで作品に取り組めるのは、しろうと監督(メル・ギブソンはこれが初監督作品)(のようなものらしい)ならではのことか!と感心するやら、うらやましいやら。

とにかく近年まれなほどの大傑作!何度も何度も何度も観たい作品。 戦闘シーンも大迫力で、うちの息子は「プラーベート・ライアン」を見たとき「戦闘シーンがブレイブハートの現代版」と言ってたくらい。
「こういう時代なら男が偉くてもしょうがない」と思えるほどの、肉弾戦コンバットです。
この映画については、「PARKLANDS/「ライフナンバー占い」の、ライフナンバー9の「おすすめエンターティメント」のところでもちょっと触れています。

この映画の教訓:自由でなけりゃ、死んだほうがマシ

「タイタニック」
ジャンル/パニックもの
監督/ジェームズ・キャメロン
主演/レオナルド・ディカプリオ

ここに挙げた他の作品と比べると、「一部の隙もない作品」というのとはちょっと違いますが、世界一の豪華客船は処女航海で沈没、希少なダイヤは換金もされずに海に沈み、ヒロインは玉の輿より自由な人生を選んで、マテリアルがこんなにもケチョンケチョンに描かれた映画もめずらしく、ある意味とってもエコロジカルな、時代性のあるお話でございました。沈み行く船に乗ってるようなわたくしたち人類には、とっても人ごとではなかったですね。

監督のテンションもただごとではなくて、「俺はこの映画が作りたかったんだ〜〜〜!」という雄たけびが聞こえてくるようでございました。
ラストシーンで、「ローズちゃんが入ってきたら楽士さんはお辞儀してくださいね。船長さんはみんなが拍手した後、一拍おいて拍手してください。合図が出ますからね!」なんて指示が出されてるとこを想像して、貧血おきそうになったのはわたしだけでしょうか?(だけでしょうね・・・) タイタニックの乗客乗員のみなさんも、きっとお歓びのことと思います。

実話をベースに描かれたらしいわき役の面々が、特にみんな説得力があって生々しい!(検証番組を観たら、船長さんや、アンドリュースさんなんかそっくりでした)
どうせ死んでしまうのに、自殺しちゃうマードックさん(だっけ?)とか、すごくかわいそうでしたね。息子は「最後まで演奏してた楽士さんたちが一番偉い。これが実話だったらすごいけど」と言ってましたが、ほんとの話なんだよね、あれって。
人間の崇高さ(その逆もあるけど)には、はかり知れないものがありますな。

この映画の教訓:どうせ一度は死ぬ身なら、いさぎよく生きよう

「ガープの世界」
ジャンル/人間ドラマ
監督/ジョージ・ロイ・ヒル
主演/ロビン・ウィリアムス

わたしは作家のカート・ヴォネガットに大きな影響を受けて作家になって、勝手に「ヴォネガット派閥」を自称していますが(もちろんヴォネガット先生は知る由もございません)、「ガープの世界」の原作者ジョン・アーヴィングもヴォネガットに影響を受けたとされる作家。
でもって、この映画の監督のジョージ・ロイ・ヒルはヴォネガット作品「スローター・ハウス5」の映画化も手掛けて成功を収めている人。
そんなわけでこの映画は、観ればすぐわかる、とっても「獸木テイスト」な映画です。

今をときめくロビン・ウィリアムスやグレン・クロウスの出世作でもあるんだよね、確か・・・(ついでながら、この作品で性転換した女性のロバータを演ってたジョン・リスゴーは、「クリフハンガー」で悪者の親玉を演ってた彼と同一人物です。)。
ストーリーや登場人物も超絶パワーですが、演出技法的にもものすごく凝った、すばらしい作品です。
主人公の小説家ガープが最初の作品を書き上げるシーンを見れば、作家がどんなふうに作品を作っているかが、どなた様にもよくおわかりになると思います。そうなんです。ああやって作っているんです。
この映画を観て「あたしちょっとダメ」という人は、PALMは読まないほうがよいでしょう。

この映画の教訓:信念のままに生きた人間の勝ち

「セント・オブ・ウーマン」
ジャンル/人間ドラマ
監督/マーティン・ブレスト
主演/アル・パチーノ

盲目の主人公は保守的な退役軍人で、人種的偏見も持ってるいやな奴。それでも観たあとで、雄たけびをあげて走り出したくなるファイブスターもの
セント・オブ・ウーマンのセントは、「香り」のこと。つまり直訳すると「女の(いい)匂い」というタイトル。
地味に丹念にエピソードを積み重ね、「ああ『普通の人々』みたいなスポコン風文芸ストーリーなのかな」(ちなみに『普通の人々』はスポコンものではありませんが、観ながらなぜか『ああしろ!こうしろ!負けるな!』とはやしたくなるお話です)
(すみません、自分にだけわかる言い回しで・・・両方観れば納得できますが・・・『普通の人々』はロバートレッドフォード監督、ドナルド・サザーランド主演作品です。ビデオ借りたい方のため。)、と思いきや、最後に「どーん!控えおろう!」と黄門様の印篭が飛び出すやら、金さんの桜吹雪ぼうぼうやらで、大満足!

アル・パチーノが、日常的に自殺を考えるような絶望を、本当に絶望の浮き出た人相で、地じゃないかというほどの迫力で演じてます(確かこれでアカデミー主演男優賞をゲット)。
ちなみにここでチャーリー役をやった好青年の代表クリス・オドンネル君は、後にバットマンでロビンになり、ジョージ役のせこくて卑怯な演技がもう驚くほど堂に入ってた彼は、成長して最近「パッチ・アダムス」でちょっとおいしい役をやっていました。

この映画の教訓:死にたくなったら人助け

「パルプフィクション」
ジャンル/バイオレンス・アクション
監督/クエンティン・タランティーノ
主演/サミュエル・L・ジャクソン

この映画を観て、「このタランティーノという奴は誰だ!?天才じゃないのか?!」と大感激だったわたしは、他のタランティーノ作品を観てかなりずっこけてしまったのですが、それはそれとして、とにかくこの作品は絶品です。
くどいほどの過激暴力シーンにへこたれず、とにかく最後の最後まで観ましょう。すごいです。泣きます(かどうかはわかりませんが、わたしは泣きました)。

関係ないけど、映画の中であんまり誰も彼もがドラッグ三昧なので、観ながらつい「ヤクなんかやるより、漫画描いたらいっぺんでトリップできるのになあ」と思ってしまった不謹慎なわたしでした。
それはそうと、この映画でヨランダ演ってた彼女と、「ガープの世界」でエレン・ジェイムス演ってた彼女は同一人物?あんまりイメージちがうので、はっきりしませんでした〜。

この映画の教訓:俺(人間)はほんとは悪いやつ。それを認めるのはこんなにむずかしい。改心してものたれ死に。でもしないよりはマシ。

「ダンス・ ウイズ・ウルブス」
ジャンル/開拓史もの
監督/ケビン・コスナー
主演/ケビン・コスナー

これは観た人も多いと思うので、説明不要だと思いますが、あまり好きじゃなかったケビン・コスナーを思わず見直しちまったほどの名作でございました(でもすぐあとでボディ・ガードに出たのはなぜ・・・?)。
おどろきなのは、白人が、もうネイティブ・アメリカンえこひいきじゃないかと思えるほど「低能で愚劣」描かれていて、しかも作っているのが白人ということ。日本で同じことができるでしょうか??できる日本人になりたいっす。主人公のケビン・コスナーも、最初妙に情けないのに、インディアンの仲間になってゆくうち、かっこよくなってくんだよね。

この映画の教訓:フロンティア(理想郷)とは自然そのものの事じゃった。はやー、壊しちゃったよ。

「許されざる者」
ジャンル/西部劇
監督/クリント・イーストウッド
主演/クリント・イーストウッド

この映画の主人公のマーニーは、かつて女子供さえ殺したという極悪非道な奴。それでもラストシーンは思わず拍手喝采。なぜかというと、マーニーより悪い奴が、この世にはたっくさんいるからなんですね。人も殺さず、普通の生活をしてるからって、善人とはまったくもって限りませぬ。
優れた作品の条件に、「善悪の観念がはっきり分かれていないこと」と書きましたが、こんなに善悪の境目が混沌としてるヒーローものも珍しいでしょう。「文芸西部劇」とでも申したらいいんでしょうか?ジャンルとしても目新しいお話です。

「ダーティ・ハリー」のどこがおもしろいのか、さっぱりわからないわたしではありましたが、監督業に乗りだしてからの(この映画は彼の監督兼主演)クリント・イーストウッド先生はかっこよか〜。 さらにかっこいいことに、この映画では「ブタに引きずり回されるクリント・イーストウッド先生」「馬に振り落とされてまともに乗れないクリント・イーストウッド先生」「銃を撃っても的に当たらないクリント・イーストウッド先生」といった、たいへん珍しいものも見られます。ジーン・ハックマンも小憎らしくていいよ。

この映画の教訓:弱いものいじめをすると、マーニーにぶっ殺される

「フォレスト・ガンプ」
ジャンル/人間ドラマ
監督/ロバート・ゼメキス(でしたっけ?)
主演/トム・ハンクス

他の動物よりはるかに優れているとされる人間の頭脳と、徳の高さや幸せとの関連は実はあまりない、ということがわかりやすく描かれた映画。
時代の坂を転げ落ちる二十世紀アメリカの、病みと痛みと苦しみの中を、孤独ながらただまっすぐに生きてゆくガンプの世界。ガンプの視点を借りた、たんたんとしたユーモラスな語り口の中、ジェニーやルテナント・ダン、汚職や暗殺や戦争に埋め尽くされた世界の、のたうつような苦痛に思わず圧倒されます。
いったいどうしてこんなことに?
「バカとはバカなことをやる人間のこと」。ごもっともでございます。
俗な我々人間がガンプのように芝刈りで満ち足り、質素な生活を維持する以上のお金はすべて寄付に回すほど利口になれるには、あと1万年くらいはかかる?長い道のりでございます。

この映画の教訓:とにかく走り続けよう

1999年5月


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