獸木さんちのウルフ
名前/ウルフ(またはシンディ)
性別/ オス
ブリード/ドメスティック・ショートヘア
毛色/タビー
保護者/獸木
オーストラリアの今の家に引っ越してきたとき、床下に目つきの悪い野良猫が先住していた。
人が近づけばぱっと逃げるくせに、庭仕事などをしていると意味あり気に周りをうろついて、やくざな目つきでじっとこちらをうかがっている。その距離は気づかぬうちに縮まって、数カ月すると、立てひざですわった足の下を、不自然にだっとくぐり抜けたりするようになった。
仲良くしたいのか、おい?
そうならそうとはっきり言いな。
彼が寝床をうちの床下から玄関マットにかえたころ、彼には本当は近所に飼い主がいるらしいことがわかった。 しかもあんなおっさんみたいな顔で、本名はシンディ(女性名!)というらしい。
そのうちの子供が2度ほど連れ帰ったが、飼っている数匹の猫のどれにもエサをやってないとかで、すぐ戻ってきてしまう。
子供に「連れてってあげようか?」と聞くと、「いいのよ。あいつバカなの。」という返事。お父さんに至っては「うちの猫じゃないよ。養子にすれば。」なんていう。
そもそもこのあたりは、主人とペットの関係が大ざっぱだ。
となりのドロシーさんは、大家さんのピーターのとこのメス猫ボリス(こっちはメスなのに男性名)とうちのフロイドに毎日エサをやって半保護者状態だし、アリスンも数件先の飼い猫を半養子にしている。でもってウルフも半分うちの猫だ。
もういいやと思って、猫の身の安全上首輪をつけて、うちで役所の届けを出してやった。
そして彼はサロニーの死の直後から、待ってましたとばかりに家の中に出入りするようになったのであった。
ウルフはわたしの知っているうちでも、最も乱暴な猫である。喧嘩ばかりしていて、耳はギザギザだし、鼻にもひっかき傷が絶えない。最初に買ってやった革製の首輪は数カ月でずたずたになった。どこで何をやったらそんなふうになるのだろう?
人間にも、ごろごろ甘えてるかと思うと、突然がばっと噛みつく。
隣のドロシーさんなどは、最初彼を「生意気猫」と呼んでいたのだが、彼女のお気に入りの猫たちにまで喧嘩を売ってエサを奪うので、そのうち「野蛮猫」にまで格下げになった。(一方そのころ、フロイドへのドロシーさんの評価は「ラブリー」から「ビューティフル」にまでのぼりつめていた)。
家の中に出入りするようになった彼は、サロニーの死後ナンバー1の座をゲットしたはずのフロイドを差し置いて、寒い日にはわたしのベッドで寝るようになったのだが、これがまたなかなかうっとおしい。
何だか知らないが、彼はいつも興奮していて、一晩中「ぐるあぐるあ」とうなりながら、ひとりベッドの上をのたうちまわっているのだ。
また、猫にとってはどうやら仕事中のわたしのデスクの上がVIPスポットらしく、代々の猫が入れ替わり立ち替わり原稿周辺を昼寝場所にしてきたのだが、彼はまるで戦車のようにスクリーントーンをばさばさ掻き分けてわたしの手元に突進してくる。またデスクの上でいびきをかいているかと思うと、突然「ウニャニャッ!!」と電話のハンドセットにとびかかり、大乱闘を始めてしまう。
原稿を布団代わりにしても支障なかった、あの優雅なサロニーをなつかしく思い出しつつ、わたしはいつも迷わず彼をひっつかまえて外に放り出す。
こんな彼を見て、アリスンは一言、
「去勢しなきゃだめよ。」
しかしこういうワイルドなキャラクターも捨てがたい。
現在わが家は、このウルフがウエルカムマットに寝転がって表玄関を、裏玄関を足拭きマットに寝転がってシェパード系雑種のルビーが守るという、万全の警備体制にある。
<1998年11月>
|