「なーんかお茶会っていうとこのメンツ、って感じじゃな〜い?」
オリヴィエが呆れたような調子で、言った。集まった面々を見渡す。ルヴァ、リュミエール、オスカー。オリヴィエの言う通り、ここ数回ディアのお茶会にはいつもこのメンバーが揃う。
ディアがすまなそうな表情で答えた。
「すみません、私がいつも思いつきで急に言い出すものですから。皆様お忙しいのに」
「ディア様が謝ることなど・・・・。私はディア様のお茶会を毎回楽しみにしていますし」
思いやり深い水の守護聖が、優しげな微笑みでとりなす。フェミニストのオスカーも、リュミエールに続きフォローした。
「そうさ、ディア。お茶を楽しむ余裕くらい、俺はいつでも持ち合わせている」
「オスカー、あんたなんてお茶だけじゃなくって、いろんなことに余裕あるって感じよ」
「いい男ってものはいつでも余裕を感じさせることが必要なのさ、特にレディの前ではな」
からかうオリヴィエに、言い返すオスカー。二人の会話はいつでもこんな調子だ。
「私もディアのお茶会は日々の楽しみですよー。こういう時間は有意義だとも思いますし」
この中ではひとりベテランといえるキャリアを持つ、地の守護聖ルヴァが口を開く。
「ジュリアスとカティスは緑の守護聖の交替の件にかかりきりですしー、クラヴィスやエリオットはこういった席が苦手なのか、あんまり出てきませんねえ。ランディは・・ひとり年若いから遠慮しているんですかねー、誘ったんですけどねー。ランディも早く聖地に慣れるといいですねー」
いつも他の守護聖のことを気にかけている彼らしい、分析だ。
「あ、あら、私だって別に文句言ってる訳じゃないのよ!ディアのお茶会にはいつも美味しいものが出るし、私だって毎回楽しみにしてるんだから〜。このクッキー、カロリーどのくらいかしら」
いささかバツの悪そうなオリヴィエだった。ディアは微笑んで言った。
「皆様、心遣いありがとうございます。私は聖地に来る以前からこういったお茶会が大好きだったものですから、つい・・・。あ、オリヴィエ、こちらにあなた専用に作ったダイエット向きのお菓子がありますわ」
「あら、こっちこそ細かい気配り嬉しいわ〜。ありがと!・・・うん、美味しい!」
「ルヴァ様、緑の守護聖の交替の件は順調に進んでいるのですか?」
基本的には職務に対し真面目なオスカーが、質問を投げかけた。緑の守護聖の交替は、オスカーやリュミエールが守護聖として就任する以前から、すでに決まっていた事柄だ。
「ええ、何事もなく。ジュリアスが率先してやってくれていますし、安心ですねー。新しく任に着く手筈の人物も、着実に学習を積んでいると聞いています。今回の場合、早くから準備できましたから、本当に良かった。実際の交替の時期はまだ具体的には決定してないんですけどねー」
ルヴァは言い終えると、香り良いお茶を一口飲んだ。
「かなり年若い、まだ少年だと聞いています。皆様も是非、力になってあげてくださいね」
ディアが、女王補佐官らしい気遣いをもって言った。
「せっかくのお茶会なのに、仕事の話〜?みんな真面目なんだから。もっと何か楽しくなるような・・・リュミエール、景気づけに一曲弾いてよ!」
少々堅い雰囲気になってしまった場を、オリヴィエの発言が和らげる。彼は目に見えて面倒見が良いというタイプではないが、こういう時は常に潤滑油のような役割を無意識に請け負ってしまうのだった。
「・・・残念ながら今ハープをここに持ち合わせては・・・・それに私はあなた専任の楽師ではありません」
そんな夢の守護聖の心を知ってか知らずか、リュミエールが答えた。オリヴィエはいつでもこんな調子なので、リュミエールも今更気分を害した訳ではないが、しかしその口調はきっぱりとしたものだった。
「ケチ!クラヴィスのリクエストだったら即座に聞くくせに〜」
そのやりとりを聞きながら、オスカーは横で笑いをかみ殺すのに忙しい。
「まーまー、オリヴィエもそんな言い方しなくってもー。それにリュミエールのハープはどちらかというと景気づけという雰囲気とは・・・。あーそう言えば」
仲裁に入ったルヴァが何かを思い出したようだ。その顔はものいいたげに微笑んでいる。
「なーにー?アヤシイ笑い方しちゃって」
「いえね、懐かしい話を思い出しまして。・・・ディアは覚えていますか?」
急に話題を振られて、ディアは何のことだかわからない様子だ。
「あの、エリオットの・・・・”天使の歌声”の話ですよー」
「まあ・・・いやですわ、ルヴァ。そんな話を」
ディアにもルヴァの言わんとするところがわかったようだ。顔を赤らめうつむく。
「面白そうな話題だな、エリオット様とディアに何か?天使の歌声?」
オスカーが興味津々に身を乗り出した。
「オスカーまで・・・。大したお話じゃありませんわ。あれは私が女王候補として聖地に来たばかりの頃、森の湖に一人で散策に出かけて。少々ホームシックにかかっていたのか、偶然他の誰もいなかった気安さからか、ついつい故郷の歌を口ずさんでいたんです」
ディアはそこまで言ってますます頬を赤らめた。言い難そうな彼女に、ルヴァが後を続けた。
「で、その歌を偶然聞いたエリオットが『天使の歌声を聞いた』って・・・」
「騒ぎになったのですか?」
リュミエールが口を挟む。彼は見た目の物静かな雰囲気とうらはらに、意外や他の守護聖のこういった話が好きなようである。
「いえいえ、別に騒ぎになどなりませんわ。エリオットにはその場で誤解を解きました。『先ほど天使の歌声を聞いたのだが心当たりは無いか』とまでおっしゃるので・・・少々気恥ずかしくはありましたけど、それは私の歌です、と」
「でも次の日、もう一人の女王候補、今の女王陛下ですね、彼女がこのような茶会の席で、その話を皆に話してしまったんですよー。で、ディアはもう一度”天使の歌声”を披露するはめに」
「まったくお恥ずかしい話ですわ。私の歌など。・・エリオットがその茶会にいなかったことが救いでしたわ。二度もお聞かせするようなものではありませんし」
ディアは照れながら、しかし遥か昔を懐かしく思い出しているようだ。
「ディアったら、そんな隠し芸があったのね〜!私達も聞きたいわよね、ね!」
オリヴィエの言葉にオスカーとリュミエールも笑って頷く。
「まだ少女の頃だからできた事ですわ、オリヴィエ。これ以上私を困らせないでくださいな」
そそくさとお茶のおかわりを振る舞うディア。見れば耳の先まで赤くなっている。いつも穏やかで落ちついている彼女の意外な一面に、茶会に集った守護聖達は何やら楽しい気分になった。
それからしばらく、この和やかな茶会は続いた。一同は雑談を交わし、時に笑った。
と、その時。
「ルヴァ様!・・・ディア様もこちらでしたか!!」
穏やかな雰囲気に似つかわしくない声が、響いた。4人は一斉に声の方向へ向いた。見るとそこには息せき切った、ルヴァの側近の者がいた。
「どうしたのです、そのように慌てて。何かあったのですかー?」
誰がどう見ても尋常でない様子であったが、ルヴァの口調は少々呑気だ。
「は・はい、あの・・・エリオット様が・・・お倒れに!」
「何ですって!?」
その報告に真っ先に反応したのは女王補佐官ディアだった。おもむろに立ち上がった彼女のその顔は青ざめ、唇は小刻みに震えている。
「どういうことです。ついさきほどまでお元気にしていらっしゃいましたわ!!」
「私にはわかりません、とにかく、ルヴァ様にお伝えしなければと。至急、エリオット様の執務室にいらしてください!」
「わかりました、すぐ参りましょう」
ルヴァは急ぎ立ち上がり、側近の者の後を追う。
「私もご一緒します!」
ディアもほぼ同時に席を立った。そして、オリヴィエ、オスカー、リュミエールに向かって言った。
「申し訳ありませんが、お茶会はこれで・・・」
「当然だ。俺達も行く」
ディアの言葉を遮るように、オスカーが答えた。オリヴィエとリュミエールも行きがかり上、共に行くことにしたようだ。ここで呑気に座っていても仕方がない。
一同は茶会の席を後にして、直ぐさまエリオットの執務室へ急いだ。
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