「お疲れ!今日のベースは随分良い音させてたんじゃな〜い、オスカーせんぱい☆」
オリヴィエは汗をタオルでふきながら、オスカーの肩を叩いた。
「何事も最初が肝心だからな。『SHOCK HEARTS』(注:バンド名らしい)のメインのフロントマンは俺だってことをルーキーのお嬢ちゃん達にもきっちり教えておかないと」
「なーに言ってんのよ、フロントっつったらヴォーカル&ギターのこのワタシに決まってんでしょ?わきまえってもん、考えてくれないかなぁ〜」
そう言いつつ、ライブの出来が良かったせいか機嫌の良いオリヴィエである。バンドのもう一人のメンバー、リュミエールは黙々とキーボードをケースにしまいこんでいる。オリヴィエは彼にも声をかけた。
「リュミちゃん、安定した演奏はさすがだったけど、今度からもーちょっと早く入ってね。完璧主義のワタシとしてはぁ、リハ無しのライブって好きじゃないのよ」
「申し訳ありません。今日は金曜日だったものですから……」
オスカーも話題に加わる。
「金曜に何かあるのか?」
「いえ・・・『とくダネ』のファッションチェックが・・・『ルックルックこんにちわ』も週の話題の総まとめで」
「ワイドショー見てから来るんかい!!」
思わずつっこまずにはおれないオスカー。
「よくそんなもん毎週見て・・・あっ、お前、終業式の日、無遅刻無欠席で表彰されてなかったか!?」
にっこりと微笑むリュミエール。
「ふふふ・・・・『魚心あれば水心あり』といいます、オスカー」
にっこりと微笑むリュミエール。
コイツ・・・。これがお嬢ちゃん達がひとたび浴びると即座に持ってかれるって噂の「リュミビーム」か・・・コイツの担任、女教師だったもんな・・・。
彼の無邪気な微笑を横目で見ながら心で呟くしかないオスカーである。脱力するオスカーの心中をさっしてか、オリヴィエがずいと前に出た。
「大事なライブの日くらいビデオ録画セットしてきてなさいよね!あと、一言言っておくけど・・・」
「なんでしょう?オリヴィエ」
「ファッションチェックならドン小西より同じ金曜の昼、ピーコの方が良いこと言うわよ!ルックも『女ののど自慢』のほうが面白いって絶対」
「それならご安心を。そっちもチェックしてます」
「さすがね・・・ならいいわ」
「良くねーって!!!」
(うふっ、なんだか楽しそうね。仲良しなんだーあの3人!)
物陰で様子を伺うは、しっかり忍び込んだアンジェリークである。
片づけ終えた3人がどやどやとこちらに歩いてくる。
(うっそ、こっち来る!!ど・どうする?アンジェリーク・・・よく、よく考えるのよ、これはチャンス!!)
彼女は瞬時にクラウチングスタートの態勢をとり、反射的にスタートを切った。
「オスカー先輩っっっっっ!!!!」
「うわっ!!な・なんだ!!!」
思わぬ場所からつっこんできた人影に体当たりされ、もろとも倒れ込むオスカー。
「大丈夫?オスカー!!」
「あなたも・・・どうやら新入生のようですね、お怪我は?」
即座に彼女の左胸の花をチェックし、なおかつ手を差し伸べるリュミエール。業師だ・・・。
「あ・ありがとうございます、いえあの、すいませんっ、あたしったら慌てちゃって・・・」
オリヴィエも負けじと優しげな微笑みを返す。
「ダイジョーブだよ、この男なら少しくらい突き飛ばされたくらいで壊れないから」
コイツら・・・。はっ、いかん。
はたと気づき、言いたい言葉をのんでオスカーもオノレのフェイバリット角度でアンジェリークに微笑んだ。
「気をつけないと、その可愛い顔に傷でもついたらいけないぜ?」
「いやぁ〜〜〜〜〜ん、オスカー先輩ったら!可愛いだなんてそんなっっ!!」
ぐっ!今のボディ、きいたぜ・・・。
「げ・元気があるな、お嬢ちゃん。で、俺に何か用か?」
「いやっ、そんな!・・・私のこと、わからないんですか?」
みるみる大きな緑の瞳に涙が浮かぶ。
「うわっ、な・なんなんだっ、急に・・・!」
「・・・もう新入生にまでお手つき?ったく・・・」
「手が早いにもほどがあります、これではフォローのしようも」
「無実だっ、俺は知らん!」
「ひどい〜〜〜、知らないなんて〜〜〜あの言葉嘘だったんですか〜〜〜」
「わぁああああ、泣くな、泣くなーーーーーあっ!」
そんなオスカーの慌てぶりに、にやつくオリヴィエ。
「ひどいわ〜オスカーせんぱ〜い!!一度見たオンナノコは忘れないってのが特技じゃなかったっけ〜〜え」
ついで、リュミエールも顔を曇らせながら言う。
「あなた・・・言うに忍びないですが、彼に誠実を求めるのは・・・」
「二人とも面白がって煽るなっ!・・・すまん、金の髪のお嬢ちゃん、せめて名前・・・」
しゃくりあげる彼女は声も絶え絶えに言った。
「アンジェリークです・・」
アンジェリーク。アンジェ・・・リーク?
「あーーーーーーーっっ!!!アンジェリークって、あの?」
《続く》