ま、いいかと心で呟いてから、オスカーは話題を変えた。
「お前等これからどうする?真面目に教室に戻るつもりか?」
「真面目に、とはオスカー・・・それが生徒会長の言うべき言葉なのですか?」
「度重なる遅刻を笑顔ひとつで切り抜けてるよーな生徒会書記が言う言葉でもないよ〜」
「そういうあなたも・・・校則を破ることに関しては会長と肩を並べる副会長」
3人は笑い合った。
「決まりだな。出席してることは今更教室で手を上げてお返事しなくっても知れてることだ。生徒会臨時首脳会議といくか、いつもの場所で」
「オッケー。議題は?会長サン」
「次回ライブのセットリストについて、さ」
「ふふ、まったく・・・とんだ生徒会、ですね。到底皆には聞かせられない」
「他のことも問題なくこなしてる、誰に文句は言わせないさ。でな、ライブだが。今年一発目だし、いろいろ趣向を懲らしたいんだ、日頃のライブじゃやらないような曲を・・・」
オリヴィエの瞳が輝く。
「じゃあさ、いっそのこと今回、ひとりひとり弾き語りやらない?コーナーでさ」
「あ、それならば一曲歌いたいと思っていた曲が・・・」
「何だ?リュミエール」
「『YOUR SONG』、美しい曲です」
「うわ〜〜〜、ベッタベタ〜〜〜!そーれでまたファン増やそうって魂胆ね?リュミちゃんそーくるなら、ワタシはぁ・・・『LOVE ME TENDER』とか!」
「オマエだってベタベタじゃないか、その選曲。まったくあざといな、お前等」
「んじゃあ、オスカーは何なのよー」
「決まってるだろう?」
オスカーは即答した。
「俺は『バス・ストップ』だ」
・・・・・・・・。
「良い曲ですよね・・・」
「まあね・・・確かに日頃はやれないしね・・・」
そんな話に花を咲かせつつ、彼らは教室とは逆方向へ歩み去っていった。
「うふっ、聞かせられないって言っても、聞いちゃったもんね〜」
アンジェリークである。恋する乙女は「また今度ゆっくり」なんて言われて大人しく引き下がっていられない、何せ合い言葉はガッツ!なのである。
「いつもの場所、ってどこだろ?きっと3人でいつも密談するお気に入りの場所があるんだわ。こーなったら尾行尾行!!なあんか楽しいな〜〜〜」
ひとり盛り上がるアンジェリークの背後から声が飛んだ。
「お待ちなさい、そこの女生徒!!」
振り返るとそこには、やたら派手なでかい白衣の女。誰?
「・・・あなた、外部入学の新入生ね?」
何?このオンナ。エラソーね、意味も無く!
「今後よーく憶えておくのね、私は美人養護教諭、サラよ!・・・で、新入生の教室はそっちじゃないわよ」
なんかムカつく態度〜〜。
ふん、ちょっとくらい出るとこ出てるからって何よ、要するにトウの立った保健室のオバさんじゃないの。・・・でも。ここはテキトーに言ってごまかすしかないわ。
「いえ、あのぅ〜〜〜ちょっと迷っちゃってぇ〜。この学校広いんでー」
「迷ってるんなら、案内してあげるわ。入学早々教室に遅れて入ってくのは、あなたも恥ずかしいでしょ?」
乙女なら遅刻より恋を取るもんよ!ああ、もうあんなに姿が小さく・・・。邪魔しないで、お願いだから〜!
「いえ!先生もお忙しいでしょうし、私ひとりで大丈夫ですからっ!」
アンジェリークは言い放ち、その場からダッシュをかけた。
「逃がさないわ!」
サラの声に、アンジェリークの前に壁のように立ちはだかる尋常でなく大きな人陰。
「きゃあ!何!?」
「学生の本分は勉学です、さあ教室へ」
それだけ言ってその男は難なくアンジェリークの肩をがっしと抑えた。
「パスハ、ナイス〜!」
サラはそう歓喜の声を上げた後、アンジェリークに向き、意地悪く微笑んだ。
「この人は用務員とか警備とか、いろいろやってる超かっこいーパスハ。ちなみに私のか・れ!」
聞いてないわよっ!
「学校関係者として無闇にサボりを奨励するわけにはいかないのよね〜。あなたの気持ちはわからないでもないんだけどぉ!」
・・・私が先輩達の追っかけしようとしてたの最初っから・・・。
このオンナ、できる。
「恋路を邪魔するのは本意じゃないんだけど、ボーナス査定もあるし〜。結婚資金ももう少し・・・そんなことはいいわ。パスハ!後よろしくね〜」
くそー・・・なんかこの学園、侮れない感じ・・・。でも、私負けません!ああ、オスカー先輩!今日初めてだけど、なんかもんのすごくステキだったオリヴィエ先輩とリュミエール先輩も!!先輩達にお近づきになるためには、このくらいの障害でへこたれてたらダメ!!合い言葉はガッツ、なのよ〜〜〜!
アンジェリークはそう心で叫びつつ、寡黙な用務員によって成す術もなくずるずると廊下を引きずられていった。
《続く》