何か食べに行くといって、そうそう大したトコへは行けないしがない高校生の彼らなのである。
「あ〜・・なんだかんだ言って俺達はこんなシケたとこしか行くトコないってのが」
「・・・・聞こえてますよ、オスカー・・・」
目の前には仁王立ちするひとりの女性。
「あっ、サユリちゃん!!」
ちなみにこのサユリちゃんは、この学園の寮生の胃袋の面倒いっさいを見て早40年のベテラン管理栄養士兼調理担当、である。(そんな新キャラ増やしてどうする・・・)
「今夜はヤケにキレイだ・・・惚れちまいそうだぜ」
「くだんないこと言ってんじゃないよ、このボーズ!」
「ふっ、参ったな。この俺をつかまえてボーズと言えるのは全宇宙でもサユリちゃんだけだぜ・・・で、まだなんか残ってる?」
「はいはい、あるよ。リュミちゃんからちゃんと言われてたしね、今日遅くなるって」
「ありがとうございます、いつもお手数おかけします」
「いいんだよ〜、そんな気にしないで。でもこんな時間だからねえ、メニュー選べないけど、それでもいいかい?ま、食券はサービスにしとくよ」
「サービスだなんてそのような・・・ありがとうございます、甘えさせていただきます」
微笑み合うサユリちゃんとリュミエール。
・・・リュミエールめ、サユリちゃんまで抑えてやがる・・・。
疎外感さえ覚えるオスカーはそう心で呟き横目でリュミエールを見た。しかしそんなこたあどこ吹く風のリュミエールである。
トレイに白飯とみそ汁とお新香だけ乗せて、がらんとした食堂の適当なテーブルにつく二人。そこへ追いかけるようにサユリちゃんの手でメインディッシュが運ばれた。山のよーなアジフライ。と、せんきゃべつ。しぶいメニューである。
「リュミちゃんのために特別に三枚おろししてあるからね、アジ。でもほんとは頭から食べたほーがいいんだよ〜」
「今度挑戦してみます、お気遣いありがとうございます」
「じゃあ、食べ終わったら流しに入れておいてくれればいいから」
細かいはからいもその去り際も、粋なサユリちゃんであった。彼女が食堂から出ていったのを見計らってオスカーは言った。
「アジフライか・・・悪くはないが俺達育ち盛りだぜ?肉のひとつも・・・」
「すでに3尾も口に入れてから文句言わないように、オスカー」
「オマエだって自分の皿にそんなに取ってるじゃないか」
「あなたとの食卓ではこうでもしなければ必要な栄養さえ確保できませんので。ええ、昔からそうでした、いっつもいっつも・・・」
「だーーーーわかったわかった!しかしアジフライごときでせこい言い争いしてる俺達・・・情けないぜ。くそ〜〜〜オリヴィエめー」
「逆恨みというものです。・・・しかし随分こだわりますね、オリヴィエのことに」
「今頃アイツはおデートで上手くやってるっつーに、こっちはヤロー二人でアジフライだ。腹も立つだろ、フツー。・・・・しかし、オマエ食うな〜〜〜せんきゃべつ・・・・」
野菜が好きなリュミエールであった。会話は続く。
「ではオスカーもでかければ良かったではないですか。お相手には困らないでしょう?」
「お相手には困らないから困る。誰と選べないからな・・・罪な男だ、俺も」
「このあいだ知り合ったあの方・・・ジュリアーナさんでしたっけ?あの方とは、どうなったんです」
「え?・・・俺、名前言ったっけ、お前に」
「小さなことです、で、どうなんです?」
「彼女は少し誇り高すぎたな。大体、年上は金がかかる」
「もう別れたのですか・・・あなたも少しは腰を落ち着けてじっくり長くおつき合いしたほうがいいのではないでしょうか」
「お前にだけは言われたくないな。お前こそこないだのMDのアレ・・・」
「彼女とは良いお友達ですから」
「そ〜ゆ〜のが一番タチ悪いんだよ。大体、彼女だけじゃない、お前何人『良いお友達』いるんだ。新学期だし友達100人できるかなってか?」
「そう誰彼となく特別な感情を抱けるほど器用ではないのです、私は」
「目を背けてるだけだろ、取り巻き連中が泣くからな。そういう面倒が一番嫌いなんだ、お前は」
「だからといって複数と同時、というのもどうかと思いますね」
「平等に愛せればいいってマホメットも言ってる。歴史で習っただろ?今度のテスト、範囲だぜ、あそこ」
「歴史であなたに負けたことはありませんよ。今回もトップはいただきます」
「それはどうかな。甘くみてると足下すくわれるぜ?前回は逃したが、前々回は俺だった」
「ですが前々々回はオリヴィエで、前々々々回は私が・・・」
もーいいって。お互いどーにもくだらない展開になる会話に少々の脱力を覚えた。ふと目をやると、二人の中央の大皿には、遠慮のかたまりのアジフライ。
オスカーがそれに箸を伸ばした瞬間、リュミエールの手がとっさに動いた。オスカーの箸の先、最後のアジフライには、マヨネーズがふんだんにかけられていた。
「・・・・・・・リュミエール・・・・・・・・喧嘩売ってんのか」
「は?何のことでしょうか?ああ、もしかして食べたかったんですか、このアジフライ。私はまた、もういらないのかと思って・・いいですよ、お譲りしましょう」
ばきっ。オスカーの手の中にある箸が、折れた。
「この学園で、俺が・・・マヨネーズ嫌いだって知ってんの、オマエとオリヴィエと、サユリちゃんだけなんだよっっっっ!!!くそ〜〜〜どいつもこいつも!!」
「ちなみにグリンピースもです。あんなに美味しいのに・・・」
「やっぱわかっててやってんじゃないかーー!」
そう絶叫したとたん、食堂のドアが開いて聞き慣れた声が響いた。
「オスカー、アンタがそんな面白い反応するからからかいたくなるんじゃない。食事くらい静かにできないの〜、まったく。もう遅いんだからメーワクだよ☆」
言うまでもなく、オリヴィエであった。
《続く》