リレー小説『踊るサクリア2』24 by WON

 ざわざわと落ち着かない武道場。時折黄色い声援が入り乱れ、気の早いフラッシュが中央の2人に向けられる。
「オスカーのばか」
 オリヴィエは隣に正座するリュミエールにだけ聞こえるつぶやきをもらした。
「そう言い切っては・・・」
 と正面を向いたまま防具を身に付るリュミエールも吹き出しそうになるのを我慢していた。

 剣道で決着をつけると言ったオスカーに抗議しようと後を追った2人だったが、オスカーと再会したのは保健室。ベッドに横たわるオスカーは滝のような脂汗を流し、言葉にならない声を発していた。
 養護教諭のサラは湯たんぽを準備しながら「食べ過ぎによる腹痛ね、尋常じゃないモノ食べたんでしょ」とだけ言った。しかしオリヴィエとリュミエールは、その”差し入れ天国でのオスカー”を容易に想像できた。
「動けそうですか?」
「午後からの勝負はどうすんの?」
「先に私とオリヴィエで勝負をして・・・」
「復活できそうだったら参加すんのね」
 と、物言わぬオスカーの口元だけでYES,NOを判断しながら会話を進める彼等はなかば強引にも見えたが、横で見ていたサラは他人が入り込む隙のない友情に目頭を押さえずにはいられなかった。

「オスカーが来れるかどうかわかりませんが、久しぶりですねオリヴィエ」
 武道場の喧噪を無視するように、面を両手に抱え姿勢を正したリュミエールが言う。
「・・・爪も切ったし、その気だからね私」
 オリヴィエは浜千鳥の手ぬぐいをぴったりと額に合わせ、ちらとリュミエールを見た。
「それはよかった」
 微笑ともガンつけともとれるエールを送りあった2人はそれ以上喋らず、支度を整え立ち上がった。
 静まり返った武道場に「礼!はじめ」の声がかかった瞬間、声をあげて思いっきり竹刀を合わせる。
 実戦から離れていたとはいっても、幼い頃に身体にしみ込んだリズムは消えない。ひとつひとつ思い出すかのように間合いをはかり、確かめ合うように竹刀を合わせるオリヴィエとリュミエール。
 しかし、2人が一通り合わせて呼吸を整えようとした時、武道場の外で悲鳴があがり、入り口をぎっしりと埋めていた観客が蜘蛛の子を散らすようバラけた。
「子供の遊びかよ〜、俺達もまぜて〜」
 20人はいるだろうか、だらしない声をあげながら見るからに品の無い連中が飛び込んできた。
 寮対抗球技大会に乗じて因縁をつけにきたのだろう、昔からの犬猿の仲である対岸男子工高の不良グループだった。
「みなさん落ち着いて」
「挑発に乗っちゃ駄目だからねぇ」
 オリヴィエとリュミエールは素早く面を取り皆に言い聞かせた。が、武道場から出ようとした男子生徒が運悪く坊主頭の不良に肩をぶつけ胸ぐらを掴まれた。
 一触即発。リュミエールが仲裁に入ろうとしたその時、坊主頭の不良は掴んでいた手をあっけなく払われバランスを失うと同時にウエスタンラリアットを喰らい声も立てずに崩れた。
 その後ろから現れたのはもちろん赤い髪の男。
「オスカー!!」
 同時に声をあげるオリヴィエとリュミエール。
「俺が相手だ、来るなら来い!」
 そう叫ぶと同時にオスカーはもう3人を相手にしている。遅れて来た男の登場に沸き上がる歓声。
「・・・先に手を出しちゃいけないんだよねぇ、こーゆーの」
「私達の声が掛け声にでも聞こえたのでしょうか」
 呆れながらも防具を外し、竹刀を片付けさせたオリヴィエとリュミエールは
「生徒会長の行動は・・・」
「・・・私達みんなの責任ですね」
 と確認して騒ぎのまん中に駆けた。
 「会長〜〜〜〜〜!!」「リュミエールさま凄いっ」「オリヴィエさま後ろ!」「外見張っとけ!誰も入れるなぁ〜」等々歓声が入り乱れ、武道場はリングと化してした。

《続く》


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