リレー小説『踊るサクリア』18 by 岸田

「パスハ!パスハはどこだっ!」
 王立研究院に光の守護聖の怒号が響く。畏れおののきながらも研究員の一人が口を開いた。
「パスハ様は・・・サラ様と・・・今日は日の曜日ですから」
「また、森の湖でいちゃついているというのだな!?」
「ジュリアス・・・意外にお詳しいのですねーそういうことに」
「守護聖の長たるもの、関係者の動向くらいは・・・とか、そんなこと言ってる場合ではないのだ、ルヴァ!問題はブルーテディなのだ!」
「そうでしたー、すぐ森の湖に行きましょう〜〜」


「いやぁ〜ん、ジュリアスさまあ。そんなにお怒りにならないでくださいな〜」
 ジュリアスとルヴァの姿を見て、慌てふためくパスハの腕により一層強くしがみつきながら、サラがくねくねと言った。これはもう、熱愛デートを邪魔されたことへの嫌みプラス当てつけ以外の何ものでもない。ジュリアスはいきなり気をそがれた。
「まあいい・・・。パスハ、ブルーテディが徘徊しているぞ」
「そんなバカな!!」
「信じられないでしょうがー本当なのですよー。ロザリアが目撃したのです。既に影響が出始めていて。いつの間に聖地からこの飛空都市へ来たのか。このままではー・・」
「そなたがやったことではないのだな」
「当然です、ジュリアス様。ブルーテディの封印は私ごときでは解けませぬ故」
「そうですわ〜お二方。私のパスハがそんなことするわけ無いですわ〜。だってブルーテディにここで一番縁が無いのって、私とパスハですもの〜ん」
「それはそうですねー。では・・封印自体、期限切れしたのかもしれませんねー」
「どういうことだ?ルヴァ」
 ルヴァはブルーテディについて詳細を知らぬジュリアスに、かいつまんで説明した。
 ブルーテディ。その遥か昔、ある守護聖がこの聖地での孤独な生活を紛らわす為に愛した大きな熊のぬいぐるみ。あまりに可愛がり過ぎたせいなのか、サクリアの特殊な力なのか、とにかくいつのまにか感情を持ってしまったのだ、そのぬいぐるみは。その持ち主たる守護聖が退官した後、何故かブルーテディだけは聖地に残された。彼(ぬいぐるみ)は主を失い暴れ出す。何代前になるだろう、時の女王は彼を、聖地の王立研究院の奥深くに封印した。もしその封印が解かれたならば彼は再びさすらうだろう、かつての主人のように満たされぬ心をその身に抱き、自分を愛してくれる新たな主を求めて。
「お話を聞けば、変調をきたした守護聖様は、闇・鋼・炎・水・・・。ほーら、何だか愛に飢えてるさびしんぼーばっかりですわー見事に。ブルーテディの強い影響を受けて同調しちゃったのね、きっと。こんなことになる前に、私んとこきてラブフラでもなんでもすりゃいいのに」
 サラの言うことには説得力があった。確かにそう言えなくもない。
「でも今一番心配なのはロザリアですわね」
「ロザリアが?」
「だって最初に彼女の部屋にいたのでしょう?彼女が本命なんじゃないかしら。他の方々の変調は、単なる余波じゃありませんこと?あ〜あ、守護聖様って意外に弱いんですわよね〜こういうことに。少しはパスハのように頼りになるぅ!男らしい!ってとこ見せて欲しいわー」
「ああ、サラ・・・!私の大切なサラ・・・」
「うう〜ん、パスハぁ〜」
 結局この二人にとってブルーテディのことなどどーでもいいのであった。

「では今後どういうことが予想されるのだ」
「そうですねー。ロザリアが本命なら・・・ロザリアが可愛がってくれれば良いんですが・・・」
「そのような問題ですむのか??大体、聖地から飛空都市へブルーテディを連れてきたのは誰なのだ。ロザリアではあるまい」
「確かにー」
「それに、愛を求めて、というのであればまず最初にオリヴィエのところに行くべきだ。オリヴィエは愛をも司る守護聖なんだから」
「あ、そういやオリヴィエの姿、まだ見ませんねー。こんな騒ぎなのに」
「おそれながらジュリアス様、ルヴァ様。一番最近聖地へお戻りになったのは・・・」
 パスハが何か気付いて、しかも沈痛な面もちになった。
「オリヴィエか?」
「いいえ・・・ディア様でございます」
「ディア様!いやーん、一番愛に飢えてるさびしんぼーって感じぃ〜」
 サラだけは敵に回したくないと、一同は思った。なんとなく。

「オリヴィエと・・・ディアか」
「キーはその二人のようですね」
 長く守護聖を務める二人が同意した。その時!遠くから地響きのような音が!
 見やると守護聖が大挙して逃げまどってこっちに向かってくる!!!!
 
《続く》


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