●リクエスト小説
『EVERYBODY SINGIN' HAPPY SONG』03

 
「しかし、聖地と何の装置も無しに連絡が取れるとは思わなかったぜ」
「今までの設定とか聖地からふっとばされた時点で無しになってんのよ、きっと。この際、どんな奇跡にだってすがるしか・・・頼みの綱はリュミちゃんしかいないわ」
「そうだな、こればっかりはアイツに頑張ってもらわないと。事の発端の責任もあるし。・・・それにしても旨いな、これ」
 二人は、目の前の大皿に盛られた「焼き鳥」を頬張っていた。見れば調子にのって酒なども並んでいる。
 この「焼鳥屋」、はっきり言ってボロい。オリヴィエの美意識には反するところだ、その店構えも焼き鳥という料理も。しかし。彼らは空腹のためか、この店から流れ出る香ばしいたれの匂いにあらがえなかったのだった。質屋からまた元の通りに戻ってきた二人は、ふらふらと吸い込まれるように、この煙で煤けた、屋台の延長のような店に気付けば腰を落ちつけていた。
「お酒もいけるわ〜。こういうの初めて飲んだけど」
「見た目水みたいなんだけどなあ。まま、ぐいっといけよ、オリヴィエ〜!」
「ちょっと、アタシのおごりじゃないさ、偉そうに〜〜〜」
「だから酌だってなんだってしてるんじゃないかー。お?もう無いぞ。おねえさーん、お酒もういっちょ〜〜〜〜!!」
 意味もなくげらげら笑う二人。はっきり言って既に立派な酔っぱらいであった。いいのか、こんなとこで酔っぱらってて。そんな心配(誰の?)をよそに、彼らはしこたま焼き鳥その他を腹におさめ、酒をかっくらい・・・外は暮れていくのだった。

「なあ。料理も酒も旨いが・・何か足りないぜ、オリヴィエ」
「・・そろそろ言い出すんじゃないかと思ってたわよぉ〜。・・・女ね?」
「さすがわかってるな。こーなったらナンパだ、ナンパ〜〜〜!!!」
「せっかくお金もあるんだしー、洋服も新調しちゃおっか〜〜〜!」
「おーーーー!」
 無根拠に勢いづく酔っぱらい二人は、おもむろに席を立った。食べ倒し、飲み倒したわりに安い会計をすませ、彼らは少し歩いたところにある、ビルに入った。閉店間際のファッションビル。歓喜するオリヴィエは、目に付いたものをどっこどこ買う。迷う必要は無かった。焼鳥屋でいくら粘ろうとたかがしれている。金はまだまだ潤沢にあった。スーツ、シャツ、靴、時計、アクセサリーに至るまで。ここはどうも若者向けの店であるらしく、そう驚くほどの総額にはならなかったが、オリヴィエはオイルダラーかインドのサルタンか、ってな勢いで札ビラをきって買い倒した。
 オリヴィエの見立てで、オスカーまでもが今まで身につけていたもの全てを総取り替えし、それまでわりとラフな格好をしていた二人は、思いっきり様変わりを果たした。準備は万端だ。
「ここから先はアンタの仕事よー」
 ショッピングを大いに楽しんだオリヴィエにとって、もうナンパなどどうでも良いようなものだったが、まあ、次なる場所に行くに、案内人も欲しい。
「オーケー。まかせてくれ」
 オスカーは指を鳴らし、人通りの多い通りに出る。ものの数分で帰って来た彼の腕には数人の女性達が鈴なりになっていた。彼女らに案内されながら、オスカーとオリヴィエは酒の勢いも手伝って大いに浮かれて夜の街に消えていった。


 ところ変わって、聖地では。年長守護聖3人とリュミエールが、水晶球をまんじりともせず見守っている。
 ひとしきり時が経ち、闇の守護聖が口を開いた。
「・・・わからぬ」
「貴様〜〜〜!!さんざ待たせたあげくがそれかっ!」
「最初から言っている・・・私の水晶は捜し物には向かぬと」
「この期に及んでまだいうか!!」
「ジュリアス様っ、クラヴィス様をおしかりになるのは筋違い、私が、ああ私が悪いのです、やはりここは死んでお詫びをーーーー」
「リュミエール〜〜、だからそれは何の解決にもならないと言っているじゃありませんか〜」
 相変わらずであった。リュミエールが死んで詫びても何の解決にもならないが、この4人で顔を付き合わせても、何の解決にもなっていない。どころか、妙な面倒を増やしているような気にもなる。争いごとは嫌いなのに・・・。リュミエールはますます暗い気持ちになった。彼は言った。
「もう一度、二人と連絡を取ってきます。何か向こうでもわかったかもしれない」
「そうですねー、こちらは3人で引き続きどうにかしてみます。リュミエール、一人でも大丈夫ですよねー」
「はい、それはもう。・・・では、後をよろしくお願いします、ルヴァ様」
 そう言い残し、リュミエールは去った。その消えた先を見つめながら、ルヴァの顔は少々苦渋の色を見せていた。気持ちはわかる、誰でもこのメンツで後をよろしく頼まれたくはないだろう。しかし、やらねばならない。何とかして解決の糸口でも探し当てなければ。
「クラヴィスの水晶球がダメだとなると・・・別のやり方でやるしかないですねー」
「まったくわざわざこのような場所まで出向いたというのに。役立たずな」
「・・・自分がまず役立ってから物を言え・・・」
「なーにーーーーーぃ?」
「ああああー喧嘩してる場合じゃないんですよおう」
 ルヴァは考えた。そして最後の手段とも言える提案をする。
「この際・・・同じやり方、というのはどうでしょう」
「・・・その『コックリさん』とやらで、捜索をする、ということか?」
「そうですよークラヴィス。事の発端はそれなのですし。この際、3人でやりましょう!」
「大丈夫なのだろうな。ミイラ取りがミイラになっても」
 ジュリアスが呟く。
「ふっ、さすがの光の守護聖も怖いとみえるな・・・」
 闇の守護聖の一言で、ルヴァの提案が取り入れられたことは、言うまでもない。


「ここね〜どちらかというとカジュアルな街だから・・・あなたたちに似合うようなお店が少ないのよー、こんな程度でごめんね〜」
 オスカーがナンパした中でもひときわ目立って派手な女が言った。
 雑居ビルの地下にある、狭く小さなピアノバーである。
「かまわないぜ、十分だ。他に客もいないし、落ちついてレディ達とカクテルを酌み交わすのも悪くない」
 両脇に、ほんの短時間で釣って・・・いや誘いをかけたにしてはレベルの高いルックスの女達をはべらせ、ご満悦のオスカーであった。
「あなた達、モデル?」
「別に〜そういうんじゃないわよ〜」
「へえ、こんなに格好良いのにぃ〜、二人とも。絶対外人モデルだって、そう言ってたのよねー。あ、もしかしてお忍びで東京に遊びに来た外タレとか??」
 別の女も口を挟む。
「そんなよーな・・・ま、そんなことどうでもいいじゃない、楽しく飲みましょ、ここはワタシがおごっちゃうから、好きなもん頼んでちょうだい!」
「きゃあ〜〜〜〜!」
 盛り上がる一同。女達は遠慮なく豪快にオーダーを繰り返す。オスカーとオリヴィエもがんがん飲みまくる。既に焼鳥屋で安酒をしこたま飲んでいる二人だから総酒量は相当なものだった。
「写真取りましょうよ〜!私、ポラロイド持ってるからー!」
 女の一人がバッグからカメラを取り出す。
「いいねー取ろう取ろう!」
「はい、ちーず!」
 他に客がいないのを良いことに、ヤリ放題である。ムーディに薄暗いフロアにフラッシュがたかれ、上品なピアノの生演奏に下品な笑い声が被る。嫌な客であった。
「そうだ!王様ゲームしようよ〜」
「なになに?王様ゲームって!面白いの?ソレ」
「えー、知らないのー?くじで王様決めて、人になんでも命令できるのよ」
「じゃあ、俺が王様になったらレディたちの唇をいただく、なんてこともアリか?」
「まーさーに、そういうゲームだもーん!飲み会で、ノリが最高潮になったらこのゲームよお」
「ひょう、やろうぜやろうぜ〜〜〜」
 浮かれまくるオスカー。既にオヤジな喜びようである。酔っぱらっているということで、許してあげて欲しい。彼も日頃の生活で鬱屈しているものがあるのかもしれない。
 オスカーほどでは無いにしろ、オリヴィエとて楽しげである。
 何かふっと頭を過ぎることがあるのような気もするが空耳とばかりに彼らは無視してしまっていた。ああ・・・その「空耳」は。

「オスカ〜!オリヴィエ〜!」
 リュミエールは再び庭園の噴水をのぞき込んでいた。唯一のよりどころ、「心の会話」が通じない。しかし、リュミエールの顔は静かな怒りに歪んでいた。
 水面には彼らの姿は写る。何やら酒場のような場所で、女性達と宴たけなわである二人。こっちの気も知らずと、おうさまだぁ〜〜〜れだっ!とか言って。オスカーの膝には女性が二人程ものっかっているし、オリヴィエの顔にはめいっぱい落書きがしてある始末。しかもむちゃくちゃ喜んでいる。
 心の会話は通じていないのではない、彼ら、聞いてないのだ。
 自分が元凶とは言え、リュミエールは思わず遠い目になった。
 何のためにこんなに思い悩んでいる・・・?ジュリアスを怒らせ、クラヴィスをわずらわせ、ルヴァに苦労をかけ。そうしてその3人に自分は平身低頭ですがって。何もかもこの二人の為。なのに、なのに!こんな二人、このまま戻って来ない方が宇宙のためなのではないのか。あの幽霊は実は姿を変えた女王陛下で、暗なるリストラなのではないのか。ああ、それならば、この自分の今の苦しみがどれほど軽減されることか。そんな訳ないと知りつつも、彼は夢想に逃避する。
 彼は、もうやる気を失っていた。今ここにあの幽霊がいたなら、あの二人にこっ酷い目の一つや二つ合わせておいてくれと願いたいところだ。彼の身の内にはそこはかとなく黒いサクリアが満ちるのであった。


 哀しい空耳も届かぬ場所で、王様ゲームは佳境のうちに終わった。しかも二人とも、泥酔のあまり、既に半分寝ているような状態であった。こんなあられもない姿を知ってる者が見たら、今後何を言っても信用してもらえないだろう。
「そーいやー・・・さっきの写真ってどうしたーあ?」
 女の一人が言う。聞かれたもう一人が、テーブルの上に放り出されたままになっていた写真を渡した。それを見て、場の女達は一瞬にして顔面蒼白になり、目を見開く。即座に立ち上がり、そそくさと身支度を始める。その行動は早かった。
「あれえ・・・どしたの・・・?帰るの〜〜〜?」
 寝ぼけ眼のオリヴィエが聞く。
「え・ええ、アタシ達、明日仕事あるし!ホント今日はどうもありがとう!じゃねっ」
 残りの女達も口々に手短に別れを言って、あっと言う間にドアの外に消えてしまった。
「なによ〜〜〜〜、これからだってのにさあ・・・・。ああ、オスカー寝ちゃってるぅ・・・起きて、起きてよーう」
 ぺちぺちと頬を叩く。
「んあ?ああ・・・・あれ?レディ達は?」
「帰っちゃったわーなんか慌てて。なんだってーのよねー・・・・あ、写真」
 手にした途端、オリヴィエも先ほどの彼女達と同様、一気に酒に赤らんだ顔を白くした。瞬時に身体のアルコールが揮発する。
「お・オスカ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
「なんだよ・・・あ?・・・わーーーーーーーっっ!!!」
 思わず写真を投げる。楽しげな集合写真、丁度オスカーとオリヴィエの間に挟まるように・・・嫣然と微笑むくだんの幽霊の姿が!!
 二人の酔いは一気にさめた。店のソファに脱力し座り込む。
「・・・忘れてたな・・・」
「・・・忘れてたわね・・・」
 心霊写真を見て恐怖におののいたというより、こんな大事なことをすっかり忘れ果てていた自分らの方にこそ驚く。
「とにかく、リュミエールと連絡を取らないと。こんな店で飲んだ暮れてる場合じゃない」
 急に真面目な顔になって立ち上がろうとするオスカーの腕を、オリヴィエは先ほどよりなお一層暗い顔でつかんだ。
「・・・・ねえ・・・・お金、無い」
「・・・・・・・・・・・なぁ〜〜〜〜〜にぃ〜〜〜〜〜!!?」
 以下、店の者にばれないよう、心の会話にシフトする二人。
(どっ、どういうことだよ?どこかに落としたのか?)
(わかんないけど、無いもんはないのよ〜〜!)
(よく探したのか?・・・さっきのレディたちがまさか・・・)
(見たけど、ここらへんには無いわ。アタシ、ほとんど席動いてないし。・・・ねえ、どうする?)
(どうするって・・・・)
 初心に帰るしかなさそうである。あの時とは違って、もう深夜だ。人ももうそう多くはないだろう。一か八か、やるしかない。二人は心を決めた。
(いい?一気に走るわよ、あのドアのとこから)
(・・・・お前、その前に洗面所で顔洗って来い)
 顔に落書きされたまんま、食い逃げするのはあまりに哀しい。間抜けなことは一つでも少ないほうが良いような、気がする。


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