「オスカー!オリヴィエ!」
 部屋に戻ってきた二人に、リュミエールは慌てて走り寄った。
「どうした、リュミエール」
「先程、ケイがここの頭領に呼ばれて・・・。嫌な予感がするのです。このまま何もしないでいるのも・・・」
 顔を見合わせるオスカーとオリヴィエ。懸念が早速現実となったらしい。
「リューイは?一緒か?」
「ええ、ここへ戻ってきて、ケイが呼ばれたと知ると勢い込んで階下へ。おそらく・・・」
「取りあえず、行こう」
 3人は階下の一番奥、頭領の部屋とおぼしき場所へと駆け出した。
 ドアの前で中の様子を伺う。
「この屋敷が安普請で助かったな」
 オスカーが声をひそめて呟いた。ドアの内から声が聞こえる。

「ケイ。俺の辛い立場もわかってくれ。でもなぁ、これ以上こんなこと続けられたら、俺達花火屋と同じだろう?ゆうべの爆破だって、苦労のあげくに祭の余興になっちまった。結局全部仕切尚して、祭は再開されるらしい。そんなんじゃ犯行声明が笑わせるよな」
 グループのボスが、その大きな体を揺らしため息まじりに眉根を寄せた。やはり、今回の爆破の件で上からテコ入れがあったらしい。彼はくわえた煙草をゆっくりと吸い、一息に煙を吐いた。
「今度はパレードの、大統領の乗る山車に直接仕掛けろ」
「!」
 ケイは息をのんだ。そんなことをしたら大統領だけでなく、見物客も巻き込まれる。今度こそは軽傷者だけではすまないだろう。
「ケイ、おきれいな理念だけじゃ世界は変わらないんだ。別にお前がどうしてもやりたくないってのならかまわない。他の奴がやるだけだ。でも、俺達も役立たずを養ってやってるほど暇じゃない。とっとと一人で出ていきな」
「随分な言いぐさだな、オヤジさん」
 それまで静観していたリューイだったが、部屋の中に満ちる緊迫した空気に負けじと、出来うる限り平静を装って言葉を次いだ。
「ケイは随分働いたろう?それに、爆弾しかけるのだってケイほど上手く立ち回れる奴がここにいるか。爆弾もってうだうだしてる間にとっつかまるのがオチだ。そうなったら芋ずる式にここにも手が伸びる。そうだろう?」
 周囲を囲む過激派の仲間達がいっせいに怒りをあらわにする。それを制するようにボスは言った。
「お前が作った傑作がこれ以上無駄になるのは耐えられないよ、俺には。政府側の奴等に一泡ふかせないことには埒があかないんだ。ケイを庇う気持ちもわかるがな。この星には荒療治が必要なんだ。今がその時、お前の爆弾で未来を変えるんだよ!」
「・・・俺にはわかってるんだ。上の組織に丸め込まれて、あんたは奴等の言いなりだ。奴等は奴等で、俺達のことを利用して単にこの星の実権を握りたいだけ。みんな政府とさして変わりないさ。そんな未来なんかいらない。俺はもううんざりだ。オヤジさん、あんたにはもうついていかない」
 ボスの顔色が変わる。周囲の仲間達が即座に立ち上がり、二人に飛びかかろうとするのと同時に、リューイはケイの腕を掴んだ。
「一緒に行くぞ!」
「・・・・うん!」
 ケイは大きく頷き、その身軽さでドアを蹴破った。そのドアの向こうにオスカー達が聞き耳を立てているとも知らずに。勢いよく開け放たれたドアに、突き飛ばされもんどりうつ3人。
「いった〜〜〜〜〜〜いっ!!!!!」
 オリヴィエの悲鳴に、驚くケイ。
「なんでこんなとこにいるのよっ!とか言ってる場合じゃない、逃げるの!!!」
 怒鳴り声を上げるケイの背後には、今にもつかみかかろうとかけ込んで来る筋骨隆々の男達。瞬時にドアを閉め、過激派達を押さえながら、オスカーが言った。
「リュミエール、この二人と一緒に先に行け!ここはオリヴィエと俺に任せろ」
「ケイ、リューイ、この人鈍くさいけど、許してね〜。とにかくはぐれないように気をつけてくれれば、アタシ達すぐ後を追うから!」
 オリヴィエは指を鳴らし既に応戦態勢に入っている。
「あ、安心していいよ。こんくらいの奴等、アタシとオスカーで適当にやっとくから」
 リューイはケイとリュミエールとともに、後を彼等に任せ駆け出した。オリヴィエの台詞を100%信じた訳ではなかったが、とにかく今は猶予がない。リューイ達がアジトを出たことを遠目に確認してから、オスカーはオリヴィエに向き直った。
「・・・さあ、準備はいいか?夢の守護聖さん」
「オッケー。なかなか盛りだくさんね、今回の炎様とのお遊びは!」
 一気に開け放たれるドア。闘牛場のゲートが開かれ、怒りに燃えた牛を迎える冷静沈着な闘牛士さながらの二人。時間をかけてはいられない。一撃必殺で次から次へと男達を床に沈める。その様子を口を開けて見つめていた最後の一人、グループのボスに一瞥をくれてこの屋敷を去るまでに、ものの10分もかからなかった。

 

 初めてケイと出会った路地裏で、リュミエール達とオスカー達は合流した。
 街は再び祭の熱気を取り戻していた。再開される噂を聞きつけた人々が、何も無かったようにまた集まり出している。警備の人数が少し多くなったくらいで、特に最初と差違は無い。
「さあて、ここまで来たけど八方塞がりには変わりないわね〜」
 オリヴィエは相変わらず事の重大さとはかけ離れた呑気な口調だ。
 ケイとリューイのかつての仲間を全員打ちのめしてきたとはいえ、彼等が追ってくるのは時間の問題だ。しかも祭には多くの警備。ケイはここではお尋ね者である。
「とにかく、この祭の警備を突破しないことには・・・・・」
 不安げなリュミエール。ケイは何か考え込んでいる。こういった窮地の場数を一番踏んでいるのは、誰よりこのケイだった。
「一番警備の薄いところ・・・・それは前回の爆破箇所よ」
「ステージか!そりゃそうだ、すでに壊れたとこに爆弾が仕掛けられるとは思わない」
 ケイの言葉に、リューイが頷く。一同は先を急いだ。
 ステージ自体は壊れたままになっていた。ここで行われるショーはどうやら再開を諦めたらしい。警備もショーの関係者も見あたらない。彼等はステージ裏の大きな倉庫のような場所に取りあえず身を落ちつけた。中は暗く、身を隠すに打ってつけだった。
「ごめんね、リュミエール達は隠れる必要無いのに」
 ケイがすまなそうに言った。
「気にしないでください。しかし、いつまでもここにいる訳にもいきませんね」
 リュミエールがオスカーとオリヴィエに意見を求めた。
「行き先は決まってる。要はここからそこまで行くにはどうするか、だな」
 言い切るオスカーにリューイは聞いた。
「行き先って・・・空港か?」
「はは、そんな場所に行けば真っ先に捕まるだろうが、お前さん達は。ここまで一緒に来ておいてそんなことになったら意味が無い」
「それでは・・・オスカー、王立研究院の分院へ行くつもりですね」
「それしかない、緊急事態だ。ルヴァには迷惑かけて悪いがな」
 リュミエールとオスカーの会話に、ケイとリューイは不可解な顔をした。
「王立研究院?そんな場所、行ったって入れる訳も・・・・」
「ねーねー、私に良い考えがあるんだけど!!!ここを無事に抜け出す方法」
 少々考え込んでいたオリヴィエが、名案を思いついたらしい。急に口を挟んだお陰で、リューイの質問は置き去りにされた。一同がオリヴィエの方を見やると、何やらその顔は必要以上にほころんでいるように見える。少々その「名案」とやらに不安を覚えつつも皆一様に彼の言うことに耳を傾けた。
 彼のその提案に最後まで抵抗したのはリュミエールだった。しかし、今は選択肢がそれしかない。


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