老人の特徴
●老化は加齢に伴って生じる不可逆的な全身機能の低下である。
●老年期は加齢の影響(生理的老化)に伴ってそれまでの生活習慣を基盤とした疾患が生じやすい。
●健康状態や生活機能が低下し、身体的、精神的に環境の変化に適応する能力が減退する時期。
個人差が大きく、 各器官、臓器ごとにも違い、心身の老化は各個人や環境によって一様ではない。
★身体的特徴
(1)外的変化
@身長の減少 椎間板の萎縮性変化、脊椎骨の扁平化、脊椎,下肢の彎曲
A体重の減少(臓器の萎縮、細胞数の減少)
B皮膚の乾燥、非薄化、しわ、色素斑
C歯牙の脱落
D頭髪の脱落、白髪
E円背(骨の脆弱化による脊椎変化)
(2)運動機能
@動作は緩慢で不安定。(神経機能の低下)
A反射、反応が低下する。
B筋力、持久力は低下する。(握力の低下は少ない)
C筋肉のやせにより水分の貯蔵の役割は減退し、脱水を起こしやすい。
D骨量の減少により骨粗鬆症となる。(男性より女性が多い)
骨の脆弱化により脊柱変化(円背)や骨折が起こりやすい。
(3)感覚機能
@視力:調整力の低下(40歳以降自覚)、羞明、暗順応の低下、視野の減少。
老人性白内障などにより、視力は60歳以降急速に低下する。
A聴力:聴力の低下は高音域より始まる。
語音の弁別能力も低下する。
B体性感覚:触覚、痛覚、温度覚などの表在感覚の低下。
振動覚、関節位置覚などの深部感覚の低下。
内臓感覚の低下。
(4)生理機能
生理機能は全体的に低下するが、臓器による差は大きい。
大部分の臓器は萎縮し、機能の低下と重量の変化がおこる。
@循環機能心拍出量の低下(ポンプ機能の低下)・動脈硬化・収縮期血圧の上昇・脈圧増大・左心室肥大・
心機能低下・血管内腔の狭窄・抹消血管抵抗の増大
A呼吸機能 肺の萎縮・弾力性の低下・胸郭運動の低下により肝機能が低下し残気量が増大する。
肺活量,最大換気量の低下。 全肺気量は変化しない 咳嗽反射、気道粘膜の線毛運動の低下により、
痰核出力が低下する。
B消化機能 歯牙の脱落(う歯、歯槽膿漏) 口腔の乾燥、自浄作用の低下
唾液、胃液・胆汁、膵液などの分泌量減少
咀嚼機能の低下(咀嚼筋・顎関節の老化)
嚥下反射の低下
食道の蠕動運動の収縮力の低下
腸の蠕動運動の低下
味覚の低下(舌乳頭や未蕾の数の減少、味細胞機能の減退など)
嗜好の変化(舌や口腔粘膜の温度覚、蝕圧覚の減退)
C腎・排泄機能・腎皮質機能:糸球体の濾過力の低下。
腎髄質機能:
尿濃縮能・希釈能の低下・膀胱頚部の拘縮、膀胱括約筋の硬化
前立腺肥大により通路障害、排尿障害(残尿・頻尿・排尿困難
(失禁)が起こる。
腎血流量の低下。
D造血機能・赤血球、ヘマトクリット値、ヘモグロビン量の低下、血清鉄、鉄結合能の低下。(貧血傾向・老人性
貧血)
E皮膚・分泌能・水分保持力の低下。
温度に対する皮膚感受能力の低下(体温を保持する機序が活発でないため、寒冷により体温下降がおこり
やすい。)
乾燥・菲薄化により傷つきやすい。
★精神的機能の特徴
(1)脳に起こる変化
@脳の重量減少(脳の萎縮)。
A脳の血管の弾力性の低下(脳動脈硬化)
(2)精神的機能
@言語的能力、推理的能力、物事への理解力、洞察力は保持される。
A非言語的能力、数理的能力、知能効率は低下する。
B学習効率の低下、記銘力、想起力の低下。
C新しい環境には適応しにくい。
D身体機能の低下、退職、配偶者との死別などの喪失体験により、不安感、失望感、孤独感などが現れ、精神的
に不安定となりやすい。
E活動意欲の低下、依存的、無気力となる場合がある。
F抑うつ、心気状態(ヒポコンドリー)、妄想状態、せん妄、記憶障害などの精神症状が多くみられる。
(3)心理面に影響を与える因子
@身体的変化:身体機能低下、老いの自覚、病気。
A社会の役割変化:退職、再就職、対人関係の縮小。
B家庭内変化:配偶者との死別、子供の独立、子供の依存生活。
C経済的変化:経済力の低下。
★社会的機能変化の特徴
(1)社会生活上の変化
@職業からの引退、再就職
A経済力の低下
B生活圏の縮小
C余暇時間の拡大
(2)家庭内におこる変化
@養育の終了による役割損失、配偶者の死による喪失体験。 病気、同居により子供に依存した生活になる。