●PALMの3主役の中でも最も人間的なキャラクターとされるカーター・オーガスを語り部に、彼らの出会いを描くシリーズ最初の大長編。
多様なキャラクターと視点、コメディ・ドラマ・テーマ性など、総合的な意味でシリーズ代表作でもある。
この作品は、大河物であると同時にヒューマンドラマで、そして何よりキャラクター・ストーリーだ。わたしはどんな種類の作家よりも、キャラクター作家にいつもなりたい。
様々な人生を生きるキャラクターたちが作品の中で生き生きと動き、語り、悩み、戦い、想い、息づくとき、わたしたちはそこに人間の命や、尊厳や、歓びを見るからだ。
この作品を描くことでそれらに触れ、それらを讚え、人々と分かち合えたことを、わたしはいつも幸せに、またとても誇らしく思っている。
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制作エピソード/
「あるはずのない海」はデビュー前の1982年、作者21歳の夏にすでに完全なシナリオとコンテが完成、新書館へのシナリオ郵送によって最終的に(それ以前に「スタンダード・ディタイム」の習作を同出版社に持ち込んでいる)デビューを決定させた作品である。
デビュー後は約600ページのこの作品の発表を担当者にせっつき続け、デビュー約1年後にようやく連載にこぎ着けた。
シナリオ完成から本描き開始まで間が開いたため、シーンごとのコスチュームや背景の設定など、準備にたっぷり時間をかけることの出来た、唯一のPALM作品でもある。
関口ウイングス編集部のアバウトな体制は、「あるはずのない海」連載中も健在で、実は最終回執筆中に、いきなり冒頭にカラーページを追加したいとの依頼があった。この作品は連載でありながら、単行本用のコンテが最初から出来ていたような形だったから、これは無理な注文だったが、「せっかく最終回だからね。」とかいうご厚意(?)でもあったので、仕方なくもう一つおまけのエピソードをでっち上げた。これがコミックス5巻の131〜137ページ、高校での、ジェームスとアンディらの担任シド・キャロル先生との会話部分である。シド先生はこの時緊急に作られたキャラクターだが、彼女は後の話で、ジェームスの恋人となった。ジェームスは関口さん(のアバウトさ)に感謝しなければならないところだろう。
発表後、コミックスなどに使われてきた英字タイトルの「The Sea Shouldn't Exist」は、アマチュア時代に、ある英語学校に依頼して翻訳してもらったものだが(たしか文章量が少ないからと言って無料でやってくれた)、ニュアンスを検討して1978年、エイドリアン・ラニガンに「But
for the sea」と改題してもらった。「海がなければ」という意味で、「地球が今の位置になければ、海はなかった。海がなければ、我々は存在しなかった。」という文章の一部である。
Feb.1998
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