忘れられないかつての企画、無念にもお蔵入りとなったビデオアニメ版PALM「あるはずのない海」の
作者本人の手になるスケッチをまとめたイラスト集です。
プロの漫画家になってから、描いたものはほぼすべて発表して見ていただいていることになりますが、
このアニメスケッチだけは形式や量の膨大さから、出版社にレイアウトをお願いしての制作やホームページでの公開は現実的ではありませんでした(量だけでもポートフォリオ2冊、クロッキーブック7冊あって、企画やレイアウトを考えるだけでも気の遠くなる話でした)。
しかしキャラクター・デザインとシーンごとのスケッチは、表情や動きなども含めた詳細なもので、シリーズの中で絵の安定期とされる「オールスター・プロジェクト」制作後半から「愛でなく」にかけた時期に描かれたことや、アニメーターの方の見本用に、また漫画のページのようなフレームの制約なく描かれたため、変わりやすい作者の絵柄の中で最も理想に近い状態のデッサン(自分では最もよい絵で、もう二度とこのグレードは再現できないかも、と正直感じています)でもあり、死ぬまでにはぜひみなさんにお届けしたいと、常々思っておりました。
そうこうするうちに時代が変わり、パソコンの普及によりDTPで個人での編集が可能になったものの、長期を要する企画であることに変わりはなく、さすがの獸木もなかなか制作開始に踏み切れずにおりました。
しかし2009年、2月14日がPALM制作開始から35年であるに加えて、2009年がPALMのストーリー上の最終年(ストーリーの中での歴史が終わる年)でもあったことからようやく重い腰を上げ、Vol.1(前半)を出版、現在PALMが最終話「TASK」を残すばかりになった時点で、Vol.2(後半)の出版にこぎつけております。
1974年、14歳のときにPALMを書き始め、漫画家を志したときは、書き続けて完結させる心配もさることながら「そもそもこんな長い話を一体誰が読み続けるだろう?」といういかにも基本的常識的な疑問が立ちはだかっていたので、最初の想像を超える長期連載をこんなにも長い間読み続けていただき、出版し続けていただき、書き続けさせていただいたことに、たった一度の祭事で感謝を表すこともなく、ただ書くだけで終わるのではあまりにそっけなく空しいのではないか、とPALMが最終段階に入ってからずっと考えておりました。
本を作ること自体は慣れていても個人での出版などは未知の領域なので、これを書いている今も常に半分後悔中ですが、みなさんとの最後のお祝いイベントと考え、感謝をこめてVol.1,2をお手元に届けさせていただく覚悟です。
はじめは100ページくらいで、すべてのスケッチを一冊でお届けしたいと思って進行しましたが、そのページ数ではカットする内容が多すぎ、また作業的にも挫折しかけて、64ページ(新書館から発行されているイラスト集の「オーバーラップ・トライアングル」とほぼ同じ)ページ数で2冊、Vol.1が「あるはずのない海」のオープニングから、ストーリー前半(カーターがアンディを迎えに来る場面まで)、Vol.2が後半という構成になっています。
内容はシーンごとに抜粋した絵とシナリオからの抜粋文を配置し、当時の鉛筆書きのメモも見やすく再現し、鉛筆書きのスケッチを実物に近い印象に補正して、実際のコンテや、アニメを見たような感覚を経験していただけるように構成しました。
主にチョイ役しか出てこないような数シーン(アンディがジグミさんという人に迎えられて小型機に乗るところなど)はカットしましたが、他のシーンはすべて網羅されており、キャラクターデザインなども加えて、吟味厳選した絵をかなり凝った構成でレイアウトした一冊です。
アニメのシナリオは原作に忠実に書かれたので(何しろわたしが自分で書きました)、お手持ちのコミックスを参照しながら見ていただけますが、原作にない長いオープニングタイトル(映画などで最初に音楽が流れる部分)や回想シーンも挿入されています。
個人での出版のため市販のものよりお高く(何しろ部数が大幅に少ないので・・)、申し込みなんかも面倒くさく、ビジネスに不慣れな人間が手作業でやるので対応ももったりしていると思いますが、誠実にお届けさせていただきます。
また絵や文章はもちろん、企画、レイアウト、編集もすべて自分ひとりの手で納得いくまで作業・完成させておりますので、必ず楽しんでいただけるものと思います。ぜひお手元に届いて、アニメPALMのイメージとの夢をわかちあえることをお祈りしております。
2009年5月11日(2012年2月加筆)
獸木野生
本のプレビューや詳しい規格は
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