リレー小説『踊るサクリア2』08 番外編1 by WON
彼女は待っていた。
あなたが好きです。特別な方がいらっしゃるのでしょうか?
何度も書き直し、結局それだけしか書けなかった手紙を今朝、彼に渡した。 翌朝、リュミエールは彼女の教室に押しかけ、廊下に呼び出していた。 「昨日は申し訳ありませんでした。怒っていらっしゃるでしょうね」 「・・・・・・・・」 予想していなかった展開。何と答えればいいのか迷ってる彼女にリュミエールはゆっくり続ける。 「昨日はオスカーの例の一件で生徒総会の準備が長引いてしまい・・・本当に申し訳ありませんでした」 「そんなっ!無理なことを書いた私の方こそ、すいませんでした」 言い訳に聞こえないところがリュミエールのキャラクターなのだろう。理由を聞き思わず謝ってしまう彼女である。 「それで、私の返事なのですが・・・」 いきなり本題を切り出すリュミエール。 「今は特別な方を作る気持ちが無いのです」 「!・・・・」 昨日の時点で諦めていたとは言え、やはりショックは隠せない。 「特別なおつきあいはできませんが、あなたの気持ちに何かお返しがしたくて・・・これを」 と、リュミエールは胸のポケットから小さな四角いものを取り出した。 「MDディスク?」 「あなたの笑顔を思い浮かべながら選んだ曲です。聴いていただけますか?」 「私の・・・」 「ええ、私が描いた風景画でレーベルも作ってみました」 戸惑いながらも大事そうにMDディスクを受け取る彼女を見て、リュミエールは優しく微笑む。 「受け取ってくださってありがとうございます。あなたの気持ち、嬉しかったですよ」 畳み掛けるようなリュミエールの言葉に、彼女は今にも泣き出しそうである。 始業のベルが鳴り、では・・・と、立ち去りかけたリュミエールが最後に言う。 「あ、MDプレイヤーはお持ちですか?・・・よかった」 彼女は自分を振った男の後姿を見つめながら何度も何度も頷いていた。 「リュミエールってほんと・・・スケベ」 オリヴィエが低い声で呟いた。 上記の出来事を、新聞部の後輩から学園新聞のネタにすべきか問われたのだ。 もちろん、答えは”NO”。リュミエールのファンを増やすだけである。 隣で聞いていたオスカーも無言で頷く。 「振ってなおっ!ハート鷲掴みにしてくリュミエールって凄いよねぇ・・・」 「なんか・・・同じ男としてこう・・・」 「・・・うん」 学園の誇る、天然王子リュミエール。 その自覚さえない当人が、笑顔で教室に入って来るのを2人は遠い目で見ていた。
《続く》
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