休日の朝はメニューが少ない。さゆりちゃん(憶えてる〜?)が手抜きをしているわけではなく、休日は家に戻る寮生も多いからだった。しかし今日は寮対抗球技大会の日。いつもと違って食堂は人でいっぱいだ。
ミネラルウォーターとサラダ、だけを取って空席を探すオリヴィエの目に、嫌な笑みを浮かべた大男が手を振っているのが映る。
「よ〜〜お、オリヴィエ!ここ空いてるぜ、俺のト・ナ・リ!」
…そこだけには行きたくないと思ったが、そこしか本当に空いていない。オリヴィエは舌打ちをひとつして、無言でオスカーのほうへ歩んで行った。
「なんだなんだ、お前それだけしか食わないのか?それじゃあ勝てないぜ」
オリヴィエのトレーをのぞき込んでオスカーが言う。
「…いっつもコレなの、知ってんでしょ?ったく、わざとらしいったら」
「なんだその言い方。世話になっといて」
そうなのだ。今朝のオスカーがオリヴィエに対してやけに居丈高なのは、かくかくしかじかでオリヴィエ率いる南館の寮生が、オスカーの西館のシャワールームを借りたからだった。まったく足下を見る。
「はいはい、それについてはアリガト!でもそれと試合は関係ないからね。…しっかし、アンタ朝からハイカロリーなもの食べてるねぇ」
「当たり前だ、勝負に勝つ!のカツサンド。定番メニューだぜ」
「…アンタそういう縁起にこだわるタイプだよね、昔から…」
「呆れるのは未だ早い、アイツなんか」
そういって指さした背後にはリュミエールが席に座って微笑んでいる。
「おはようございます、オリヴィエ。今朝は災難でしたね」
「ああ、リュミエール…今朝はお世話様☆」
もちろんリュミエールの東館にもシャワールームを借りたのであった。
「…で、何食べてるの?やっぱカツ?」
椅子に腰掛けながらオリヴィエが言う。
「…あれ、リュミちゃんは和食だ」
よくぞ聞いてくれたとばかりにリュミエールは意気揚々と説明をはじめた。
「ええ、やはり。和食は栄養バランスも良いですし。ご飯は白星を意味するために星形にかたどってもらいましてね、今日のお味噌汁は昆布だしだと聞いたのでやはりここは」
「昆布だし?」
「ええ、よろ“こんぶ”、と言うじゃありませんか」
…こういう時に使うのか…?いや、別に間違いじゃないのかもしれない。
「で、これは?魚の照り焼きみたいだけど…」
「ぶり、ですよ!」
嬉しそうなリュミエールを横目にオスカーが耳打ちする。
「…………『V』だ、わかってやれオリヴィエ」
「ああ、Vね、V…」
「あまり朝食を重く取るのは試合に響きますしね、あとはだしまき卵とめかぶで」
「…敵を巻き込んでお株を奪う、とか?」
「さすがオリヴィエ!ご名答〜〜〜!!あ、卵は球を決して手放さない意味も」
「…………」
ちょっと無理矢理すぎるが、さゆりちゃんの贔屓、もとい、粋なはからい炸裂なのであった。
オリヴィエはおもむろに立ち上がった。
「どうした?」
「…追加オーダーしてくる。もうこーなったらカツでもよろこんぶでも!」
もとより実力は拮抗、気持ちで負けてはいかんのである。なんかしらんが負けられない!と改めて拳を握るオリヴィエであった。
「ははは、この際、ウェディングケーキみたいのでも食ったらいいんじゃないのか?景気つけに」
そう笑うオスカー、この時点でその後の不幸はまだ予兆すら無かったのだった。
《続く》