リレー小説『踊るサクリア2』27 by 岸田

 さて。寮対抗球技大会も終了し、新学期からの学内イベントもちょっと一段落のこの季節。っていつ。一応初夏を想定してください、よろしく。でもって、いわゆる生徒会主導の大きなイベントの無い今時分、オスカー、オリヴィエ、リュミエールの三人はそれぞれ所属する部活動に熱を入れていた。なんだかんだと気の多い三人、当然所属する部もひとつではなく、かけもちによる分刻みのスケジュールに追い立てられる日々であった。
 そんなある日。すでにお馴染み、寮内食堂での時間外夕食の際、偶然三人は出会った。他には誰もいないので、ごくごく自然に食堂の同じテーブルに三人は席を並べる。
「なんか久々なカンジよね、こーゆーの」
「教室じゃ毎日会ってるけどな。だが休み時間に話す暇さえなかった、ここんとこ」
「このくらいの距離がちょうど良い気もします。それぞれの時間も大切ですしね」
 リュミエールの言うとおり、その気になりさえすれば24時間一緒にいることも可能な環境の中、プライベートを確保するのは結構大事なことなんである。が、会わなきゃ会わないで、ナニやってんのかはちょっとは気になるお年頃(<?)でもある。
「オリヴィエは、今日は写真部ですか?」
「そう、来月頭にフォトコンテストあるし。ちょっと現像やってた…あれ?」
 オリヴィエがオスカーを見て言った。
「……具合でも悪いの?」
 夕食の量が少ない。
「いや…ちょっと疲れて…自主練習やりすぎた」
「え?あなたが…?確かフェンシングの大会が近くあったはず…ですが…ここの辺りであなたにかなう者などいないはず」
 リュミエールの疑問ももっともである。オスカーは(大抵それはスケジュールの都合で)全国レベルの大会まで出場した試しがない。もとより、タイトルには関心が無いのだ。フェンシングに限らず、オスカーはどの種目であれオリンピック代表選手にくらいなれるはずだった…まともにやっていれば。ひとつのことに邁進し脇目もふらずに大きな目標に向かって努力する、そんな才能が唯一彼には足りなかった。
「そんなアンタが疲れるほど自己練って。他校にスゴい新人でも?」
「いや、学生じゃない」オスカーは苦々しく言った。「おっさんだ」
「おっさん?」


「あーはっはっは!!知らないおっさんが練習場に現れてアンタのフォームにケチつけたって?おっかしい、それで自己練ってアンタも青いねぇ!」
「そーまで笑うこたないだろう?」
 爆笑するオリヴィエに、オスカーは不機嫌そうに食後のお茶をあおった。
「…ムカついたのは事実だが、確かに的を得た指摘ではあった」
「それで素直に直すトコがアンタだよねぇ、エラいエラい!」
「気になってるとこ言われりゃ誰だって!なあ?リュミエール」
「ふふ、お気持ちはわかりますよ。しかしどなたなんでしょうね?…ああ、そういえば私も今日美術室で…」
「おっさんにケチつけられたのか?」
「いえ、おっさんでもケチつけられたのでもないんですが。昼休みに忘れ物を取りにいったら、いたんです。私の描きかけの絵を見入っている人影が…そう、歳の頃は私たちと同じくらいの。見知らぬ者だったので声をかけたら」
「何て言った?」
「『色が良い、なかなか気に入ったよ』と、それだけ言って出ていってしまって」
「なんだよ、誉められてんじゃないか」
「でもなぁに、ソイツ。生意気!ホントに知らないヤツなの?」
 リュミエールは頷いた。
「ええ、まったく。転校生でしょうか?」
「転校生なら生徒会筋から情報が事前にある。見学だけだとしたって…そんな話は聞いてないぜ」
「じゃあ不審な侵入者ってことになるじゃない。一日にふたりも?」
 あり得ない。あのオノレの職務(とオノレの女に)に忠実すぎるくらい忠実な、あの用務員兼警備員の大男がそんな輩を見逃すはずがない。
「学園長への極秘の来客か…だったら校内をうろちょろなんざしないか」
「極秘の来客…あ!そうだそうだ、言おうと思ってたんだ!!」
 オリヴィエが急に思い立ったように大声を上げた。
「ねえねえ、アンタたち見た?すっごいリムジン!」
「リムジン?」
 リュミエールもオスカーも同時聞き返し、その後首を横に振った。
「ワタシもさ、窓から出てくとこしか見なかったんだけど。誰かの父兄かなと思ったけど、さすがにロングのリムジンで来るなんてのは珍しいからさ。しかも白!」
「白塗りのロングストレッチ?へえ、そりゃ随分豪勢な。ウチの学校で結婚式でもあったってのか?」
「まさか…!それにしてもそんな車で…何者でしょうね」
「すっごい派手好き!そのうえ非常識なヤツだね。まっとうな感覚があったら、あんな車で学校に来ようとは思わないよ。ったくナニ考えてんだか…あれ、なんで笑ってんのよ、ふたりとも!」
「いえあの…深い意味は…」
「だってなぁオリヴィエ…オマエが言うと…」
 ふたりはとうとう堪えきれず吹き出し、がらんとした食堂に楽しげな笑い声が満ちた。食事などとうの昔に終わっているのに、三人はそれからもしばらく、とるにたらない話をした。気の置けない友人との時間は矢のごとし。時計が深夜を告げる鐘の音を響かせた。
「さあて、そろそろお開きにしないとね。睡眠不足は美容に悪い」
「明日も休みじゃないんだしな」
「休みどころか…明日は確か臨時の生徒会の役員会があったはずです」
「…忘れてたぜ」
「会長がコレだもん。って、ワタシも忘れてたけど。議題なんだっけ?」
 リュミエールも議題までは失念していたらしく、手帳を取り出し、ページを繰った。
「あ、ありました、ええと…来週から来る予定の教育実習生の歓迎会について」
 三人は思わず顔を見合わせた。
「教育…実習…生?」

《続く》


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