リレー小説『踊るサクリア』06 by 岸田

おお、風薫る季節、香ぐわしき花々・・・!小鳥達は集い歌い、美しき娘達は豊穣を祝う。ここは楽園・・・・ああ、何もかもが魅惑的な姿をして、この私を翻弄する・・・。
「失礼しますよ〜、クラヴィスー」
「おお。これは知性溢れる友、親愛なるルヴァ君!」
「・・・・はぁ?ルヴァ・・・くん?」
 クラヴィスの私室を訪れたルヴァは、一瞬目と耳を疑った。目の前にいるのは確かに闇の守護聖クラヴィスだ。しかし、眼前の彼の人は、満面の笑みを浮かべ、しかも『親愛なる』などという単語を発する。しかも・・・・。
「も、もしかしてー、先ほどから廊下にまで響き渡っている安っぽい、いえ、芝居の台詞のような叙情詩の主は・・・あなただったのですか・・・?」
「これはお恥ずかしい。人に聞かせるつもりなどなかったのだが、あまりにこの聖地が美しいので、つい口をついて賛美が溢れてしまうのだ。罪深きはこの景色の美しさ・・・」
 そう言って、はにかむような素振りさえ見せるクラヴィスは、長年彼と共に過ごしてきたルヴァさえも絶句させるに十分だった。変だ。誰がどう見てもそう言うだろうが、敢えて言う。ものすごーーーーーーく、変だ!
「クラヴィス様〜、お茶が入りましたよ〜」
背後の声にはっと我に返るルヴァ。そこには水の守護聖リュミエールがいた。
「リュ・リュミエール!」
「これはルヴァ様、いらしていたのですか」
「クラヴィスが具合を悪くしたと聞いてお見舞いに・・・。そ、そんなことはいいのです、リュミエール!」
ルヴァは慌ててリュミエールの側に寄り、耳元で囁いた。
「クラヴィス・・・何か悪いものでも食べたのですか?この尋常でない状態・・・」
リュミエールも声をひそめて答える。
「さあ、私にも原因は・・・ただ、発熱やその他そういった異常はないようで。体調はいたって良好のようですよ、日頃よりも」
「そんな悠長なっ・・・!これ、かなり変ですよー?クラヴィスが詩を朗々と歌い上げたり・・・にこやかに応対するなんて・・・・」
「それは、むしろ良いことなのではないですか?私には喜ばしいことにしか」
「なーにを話しているのかな?ルヴァ君、リュミエール君!」
こそこそと話し続ける二人に向かって、クラヴィスが呼びかける。
「いえいえ、なんでもありませんよ、クラヴィス様。さあさ、私のいれたハーブティを皆でいただきましょう」
クラヴィスとリュミエールは満面の微笑みを交わし、すっかり和気あいあいとした雰囲気だ。ルヴァはすっかり取り残された。
(いったい・・・何が・・・・起こったというのか?)
「で、ルヴァ君。何か用事で来たのではないのか?」
クラヴィスに問いかけられ、ルヴァは本来の用事を思い出した。そうだ。オスカーから守護聖全員に話があると、召集がかかっているのだった。しかし・・・・この状態のクラヴィスを皆の前に連れ出すことは、問題があるのじゃなかろうか??ルヴァの眉間には知らず深いしわが刻まれるのだった。

《続く》


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