「ちょ、ちょっと待って!何の騒ぎなのコレ?」
森の湖まで追い詰められたオリヴィエは、息を切らしながら後ろを振り返った。
しかし、皆の視線は彼の顔ではなく、足元に集中している。
「ぎゃっ!びっくりした〜〜〜!」
オリヴィエが声を上げるのも無理はない。彼の自慢の左足にアレがすがりついていたのだ。
「あ、あれ〜?もしかしてコレかなぁ騒ぎの原因は」
少しバツが悪そうに笑いながら、オリヴィエは足元のブルーテディを抱き上げた。
ブルーテディは何も言わず、彼に身をあずけ、少しぐったりしている。
そこにゼフェルが駆け寄って来た。
「上手く行かなかったみてーだぜ・・・オリヴィエ」
そのひと言で、今日一日のなりゆきを理解したオリヴィエは、ブルーテディに頬を寄せながら皆に「ごめんね」と軽く詫びた。
「オリヴィエ、どういうことだ?説明してもらいたい!」
歩み寄ろうとするジュリアスを、ルヴァが慌てて止める。
「あ〜!ちょっと待ってください!その前にブル−テディをもう一度封印する方が先ではないですか〜?」
ルヴァの言葉で、その場に緊張が走る。
「その必要は無いよ」
オリヴィエは静かに言った。
「このコ、変なチカラなんて無いんだ。・・・最初からね」
「そんな馬鹿な!現におかしくなった者が何人も」
「ジュリアス、みんなを心配する気持ちはわかるけどさ・・・」
「と、とにかく話を整理しましょう!」
話がまとまりそうにないと思ったのか、ルヴァが切り出した。
「クラヴィスはどうなんです?かなり変ですよ〜?」
「どう変なの、リュミちゃん?」
クラヴィス本人がいるにもかかわらず、リュミエールに尋ねるオリヴィエ。
「さぁ?私には・・・今日は特別ご機嫌がよろしくて、喜ばしいことだと・・・」
「う〜ん、季節の変わり目はねぇ、そういうコトあるよねー」
微笑む2人に、めまいを感じながらもルヴァは続けて聞く。
「じ、じゃ、ゼフェルは?」
「俺はいたってフツーだぜ」
「・・・そ、そのようですね〜、あぁ!オスカーは?彼がジュリアスを忘れるなんて、かなり変ですよぉ〜〜〜」
「・・・う〜ん、日頃の願望が一気に出ちゃったのかな〜な・ん・て!」
「オリヴィエ・・・詳しく聞かせてもらおう・・・」
「ちょっと待ってくださいジュリアス!そういう事は後にしてですね〜」
「ハ〜イ!少し聞いてくれるかな?」
慌てるルヴァを制し、オリヴィエは一呼吸ついてゆっくり話し出した。
「やっぱり、みんなの思い過ごしだよ。・・・このコはね、愛情を与えるために生まれてきたんだ。身返りもいらない、傍にいるだけで安らげる、相手がそう思ってくれるだけで幸せってさ。なのに、その相手を無くして、胸いっぱいに詰まった想いのやり場を求めてそれが誤解されて・・・封印。不器用なんだよねぇ」
しんと静まりかえった森の湖。
じっと事の成り行きを見ていたあたしは、オリヴィエ様の前に出て尋ねた。
「あの・・・どうして私の部屋に?」
「ん。・・・何かさ、このコ、アンタに似てる気がしてね」
「私に?」
「女王試験だから仕方無いけど育成だけに一生懸命で、不器用だなって」
「んで俺がオメーの部屋にさぁ・・・あー!馬鹿だよなぁ」
オリヴィエに苦々しい顔を向けながらゼフェルも説明する。
「部屋に話相手がいるっていうのは、いいもんだってオリヴィエが言うから」
「・・・そうでしたの」
湖から風が吹いている。オリヴィエがブルーテディを撫でながら言う。
「この風みたいに、みんな乾くことのない想いが溢れてるんだ。私達守護聖にとって『サクリア』って呼ばれたりするものかな。でもね、みーんな生まれた時から持ってるものなんだよ、きっとさ。ロザリア・・・アンタはもっとそれに正直になった方がいい」
「オリヴィエ様・・・」
「ハイ!」
「え?」
突然、あたしの胸にブルーテディが差し出された。
「もう一度、受け取ってくれないかな?」
少し眠たそうな目をしたブルーテディは、もうしっかりあたしに抱きついている。
あたしは微笑んでゆっくり頷いた。
《続く》
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