●リクエスト小説
『EVERYBODY SINGIN' HAPPY SONG』01

 
「あ〜〜〜・・・・ヒマ・・・・」
  夢の守護聖オリヴィエは、退屈していた。
「たまには、なんかこうガ〜〜〜っと面白いことあっても良いわよねー」
 彼の独り言に答えるように、部屋のドアがノックされた。
「あれリュミちゃん。どしたの?」
「オリヴィエ・・・今お時間ありますでしょうか?」
 水の守護聖は、何やら周囲を伺うようにキョロキョロしながら、そう聞いた。そんな様子に、興味がむくむくと湧いてくる夢の守護聖。
「あるあるっ!もー何でも言ってよーーー。ヒマすぎてさぁ、退屈してたとこよー」
「・・・そうですか・・・実は私も少し・・・同じ気持ちでおりまして・・・」
「アンタはそういうとき、相手に困らないじゃない。ご主人様にハープ弾いてさしあげたり、呑気にお茶呑んで世間話したりとかさあ」
「ええ、でも・・・たまには違う方とも交流するのも良いかと・・・」
 何か奥歯にものの挟まった言い方である。ますます面白がるオリヴィエ。
「・・・・私にしか言えないことでもあんのねっ?そうなのねっ??」
「いえ、まあ・・・そういう・・・ことになりますか・・・」
「そーいうことならおっまかせ〜〜〜っ!!そうだ、そんな楽しそうなこと、私ばっかじゃもったいないわっ!オスカーは?ダメ?呼んじゃ」
「別に彼なら、かまいませんが・・・」
「うっそ〜〜〜!じゃ、呼んじゃえー!・・・ちょびっとここで待ってて、今呼んで来るからっ!もう使いやってるヒマないわー!!!!」
 オリヴィエはそう言って、オスカーの元へと駆け出した。一人部屋に残されたリュミエールは、早くオリヴィエとオスカーが戻らないかと、オリヴィエの部屋の椅子に座った。そして手に持った紙とコインに目をやり、内心の興奮を抑えられないでいた。


「コックリ・・・・さん????」
 リュミエールの言葉に、あからさまに不可解の意志を表明する炎と夢の守護聖だった。
「ええ。何やら母星系宇宙外の惑星の、それもかなり限られた一部地域でのみ存在する、占いのようなものなのだそうです。この間ルヴァ様から聞いて。複数人集まらないとできないのですよ」
「そんなの、それこそルヴァとか、クラヴィス様とかの方が適任なんじゃないのか?」
 こんな話だとは知らず、急に呼ばれて登場したオスカーが、言った。
「ルヴァ様にははなから止められましたし・・・クラヴィス様は・・・何か話が戻れないところまで行きそうな気がして」
「何なに?そんなたいそうな占いなの?その『コックリさん』ての!」
 オリヴィエが興味津々に乗り出す。
「いえ。信憑性も定かでない、遊びの色の濃いものなのですが」
 リュミエールが二人に、システムと内容をかいつまんで説明した。
「ふーん・・・何でもご存じの霊を呼び出してお伺いを立てる・・・なるほどー」
「確かにクラヴィス様の心の深淵なぞ遊びでも覗いた日には大変なことになりそうだな」
「でしょう?ルヴァ様は、どんな霊が来るかもわからないから危険もある、とおっしゃって・・・」
 オリヴィエはさもおかしそうににやにやと笑った。
「で・も。リュミちゃんはやってみたい訳ね?良いじゃない、やろうやろう!」
「どうせそう簡単に心得の無い者が霊なんか呼び出せる訳ない。まあ、でも面白そうだ、ダメで元々やってみるか。俺もかまわないぜ」
 オスカーも何だかんだ言いつつ同意する。
「あなた方ならそう言ってくださると思ってました!もう用意はしてあるんです、あとは3人の意識を集中して呼び出すだけですから」
 テーブルの上にはリュミエールが持参した紙とコインが既に鎮座していた。

「では、心の準備は良いですか?呼びますよ・・・・コックリさん、コックリさん、いらっしゃいましたら・・・どうかイエスの方向へ・・・・」
「何か大の男三人がコインに指のっけて祈ってるってのも間抜けだな」
「オスカー!もっと気持ちを集中してくださいっ!」
「そうよ、こうなったら自己暗示でも何でもかけて一生懸命やるのよっ!」
 再び3人は目を閉じ、気持ちを合わせる。
「コックリさん、コックリさん・・・・いらっしゃいましたら・・・・」
 ・・・・すすすーーーーーっとコインがイエスの場所へ移動する。
「ひえ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!動いたっ、ほんとに動いたわよう!!!」
「お前ら力入れてるんじゃないのか??」
「私は何も!・・・ああ、でもここからが大事なのです、二人ともっ。動揺してる場合じゃありません」
 興奮する二人と同じく逸る気持ちを、言い出しっぺの水の守護聖は抑えつつ冷静に続けた。
「・・・来てくださってありがとうございます・・・・あなたはどのような方の霊なのでしょうか・・・女性ですか?男性ですか?お若いのですか?それとも」
 再びコインが紙の上をスライドする。ワ・・カ・・イ・・オ・・・ン・・・ナ。
「おおっ!」
 問答が成立したことに思わず声を上げる3人。しかし約一名だけ微妙にチェックポイントが違う気もする。
「・・・文字だけなのが寂しいぜ」
 オスカーの呟きに、コインが反応する。動きを追って3人ともつい声が出る。
「『・・・ス・ガ・タ・ミ・セ・ヨ・ウ・カ・?・・・』」
 驚くべき一文に、オリヴィエとオスカーは同時に顔を紙から上げた。そしてその瞬間、目と口をそれ以上は開けられないといったくらいに開けたまま、動けなくなった。
(オリヴィエっ!!!いるっっ、いる、うっすらと!リュミエールの後ろっ!!!!!)
(み・見えるわよう〜〜〜〜。すっごい幸薄そうな髪の毛ばっさばさの女〜〜〜〜)
 二人は顔面蒼白になって声にならない叫びを上げた。しかし何故か二人の間の心の会話は成立している。
 その様子にいささかも気付かず、リュミエールはコインに向かって続けた。
「お姿を現すなどできるのですか?凄いですね・・・この占い。召還魔法並み・・・。私たちの姿はそちらから見えるのですか?」
 ・・・ミエル・・・ナニヤラトテモビケイゾロイ・・・・
「そのような。お褒めいただき光栄です」
 すっかり調子にのるリュミエールであった。
 ・・・コノヨウニカイワスルノハマドロッコシイ・・・
「え?でも」
 その瞬間、ピシィイッと鋭い音が部屋に響いた。その音に驚き、思わず立ち上がってしまったオリヴィエとオスカー。
「あっ!!!!ダメではないですかっ!!!コインから指を離してはっっっっ!!!」
 リュミエールの叫びなど、二人にはもう聞こえていない。
「あ〜、これ途中で手を離すと・・・・」
「お前いつまでボケてるつもりだっっ!」
 オスカーがやっとの思いで怒鳴った。オリヴィエも叫ぶ。
「リュミちゃん、後ろ見てよ!いるのよ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「え?」

 振り返るとそこには、霊とは思えないほどの実体を持ったように見える、女の姿があった。若いは若いが頬はやつれ、青白い顔をしている。長い黒髪は乱れて、あからさまに不幸なオーラを醸し出している。しかしその顔にはうっすら笑みが浮かんでいた。その笑みがまた、場を凍らせるに十分なほど魅力的であった。
 3人はいつのまにか部屋のぎりぎりまで後ずさり、壁にはりつくように集まっていた。


(どっ・どうすんのよ〜〜〜これ〜〜〜〜!!!)
(まさか本当に現れるとはな・・・・お帰り願えるのか〜?リュミエー〜〜〜ル)
(だからーコインから手を離してはいけないんですよ〜〜〜〜〜)
 心の会話にリュミエールも加わる。が、相変わらず問題なく意思の疎通はなっている。これも守護聖の秘めた特殊能力なのだろうか。・・などと冷静に分析している余裕は彼らにはない。
「そんなに離れないでも良いじゃない。呼び出したのはそっちだし・・・」
 彼女は言った。その声は確かに若い女性らしい可愛らしい声だったのだが、その姿と相まってなかなかに壮絶な響きをもって彼らには聞こえた。
「退屈してるんでしょ?私もそうなの・・・・。遊びましょうよ、一緒に」
(遊びたくない〜〜〜〜〜〜〜)
 3人の心のユニゾンは響きわたるが、彼女には聞こえない。しかしいつまでも畏れおののいていても、状況は変わらない。確かに呼び出したのはこっちだ。責任を感じたのか、リュミエールが代表して声をかける。
「・・・あの・・・本当にご足労願ってしまったのはこちらなのですが・・・お帰りいただくわけには・・・あの・・・私達も特にあなた様に用事があった訳では・・・」
「何?」
 その言葉に、明らかに機嫌をそこねた女の霊。
「あっっっっっ・・・すみません!何でもありません!!!!!」
(余計怒らせてどーすんだよーーーー!!!)
 オリヴィエとオスカーの悲壮な心のツッコミが空しく響く。
 彼らの様子をいささか寂しげに眺めながら、彼女はゆっくりと話し出した。
「仕方ないかも。幽霊なんて怖がられるの当たり前・・・私、これでも物わかりは悪くないつもりだし・・・・」
「え?そうなの??じゃあ帰ってくれるの??」
 意外な幽霊のセリフに歓喜の余りに口を開いたオリヴィエだった。
「でも、せっかく来たから・・・少しくらい楽しませてもらいたい・・なんてことも・・」
「そーいうことならっ!」
 オリヴィエがもみ手しながらリュミエールを向いた。
「リュミちゃん、ハープよハープっ!音楽は人を楽しくさせるわっ!」
「わかりました、すぐに!」
 慌ててハープを手に取り弦をはじく。部屋にメロディが流れた。オリヴィエとオスカーは彼女の方を見る。
「うっわ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 泣いていた。そうだ、リュミエールのハープは辛気くさいということを忘れていた。
「リュミエール、ストップ、すとっぷうーーーー!なんかやばい〜〜〜〜〜!!」
 彼女はリュミエールのハープが止んだ後も、さめざめと泣いている。
「・・・・何かいろいろ思い出させてしまったみたいですねえ・・・・」
「そりゃそうよ、成仏できてない幽霊なんだから思うとこあるわよー」
「しかし、このままじゃいかん・・・・何か楽しいこと・・・・そうだ!オリヴィエ!女はファッションやお化粧の話なんか大好きだ!そういった明るい話題で盛り上げろ!」
「わかった、やってみるわ!!!」

 オリヴィエは勇気を持って、泣きぬれる彼女の側に寄った。
「ねえ、アンタ。何があったか知らないけどそういう風に泣くのは美容に悪いわよ?」
「今更美容がどうこう言ったって・・・・」
 ごもっともである。しかしここで言い負かされてはいられない。
「いーや!幽霊だろうがなんだろうが、お洒落は大事っ!特にねえ、アンタみたいに若い子は磨けば光るんだからさ。そういうのほっとけないのよ」
「・・・そう・・・かな・・・?」
 泣き止んだ。何か気持ちも上向いてきたようだ。ぐっと拳を握る3人。オリヴィエもノリにのってきた。
「そうよーお!・・・見ればアンタ、肌のお手入れとか怠ってたでしょ、肌艶がねえ・・・うんうん・・・ああ、失恋して・・・夜も眠れなかった・・・あー、睡眠不足はねー一番いけないのよ・・・ああ、そんなことあったの、うーん、酷いね、その男・・・でもさあ・・・」
 ひとしきり幽霊と話し込んだ後、オリヴィエは二人の方へ向いた。
「何かいろいろ辛かったみたいよ〜〜気持ちわかっちゃうわーワタシ」
「意気投合してる場合かーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
 またもや工作は失敗に終わった。幽霊の彼女はますます暗い過去を思い出している。

「最後の手段・・・オスカー。あなたしか頼れません」
「そうよ、よく考えたら女の子楽しませるとか、アンタが一番得意じゃないのさ!」
「そうか・・・・よし。やってみよう」

 炎の守護聖は、かつてないほどに気合いを込めて、彼女の側に歩み寄った。
「お嬢ちゃん・・・・もう泣かないでくれ・・・・」
「え・・・?」
 耳元に囁かれる声に、驚いて顔を上げる。ただでさえこの世ならぬ顔が涙に濡れていると、たとえオスカーでも数歩思わず下がるほどの迫力であった。が、ここが踏ん張りどころだ。オスカーは目を閉じ、いつもの調子を思い出す。
「レディにそんな風に泣かれると・・・俺は辛い。全ての女性に幸あれと願っている、俺としては心引き裂かれる思いだ」
 つるつるとセリフが出る。一回ペースを掴めばこっちのもんだ。オスカーは続ける。
「俺はお嬢ちゃんの笑顔が見たい。潤んだ瞳もなかなかにグッと来るが、その瞳が喜びの色に揺れた時、さぞかし艶やかに俺を魅了するだろうと思うと・・・つい、こうして指は涙を拭うに忙しく動いてしまうのさ」
 彼の人差し指の背は、彼女の頬に当てられ、実際にその涙を拭う。
 思わず赤面するオリヴィエとリュミエールだった。が、彼のラストスパートを邪魔してはいけない。心でエールを贈りまくる二人だった。
「さあ、笑ってみてくれ・・・そしてその笑顔が俺をどれだけ虜にするか・・・・試してみないか?」
 決まった。何かやり遂げたように満足げに目を閉じるオスカー。
 彼女はずっと黙ってされるがままになっていたが、ようやっと口を開いた。
「・・・・・・・私を振った男も・・・・同じよーなこというヤツだった・・・・いつも笑ってるお前が好きーとかなんとか・・・んで、裏で他の女に・・・信じて笑ってた私って馬鹿みたいって・・・気が付けば手首・・・・」
 彼女の言葉に、体中の血が引いた3人だった。
「だーーーーーーーーーーーっ!!!!一番逆効果〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
「ああ、思い出すだに腹が立つ・・・何で私あんなヤツの為に死んだりしちゃったんだろう・・・・くっっそおおおおおおおおおお」
 彼女の目が光り、髪の毛が総毛立つ。見るからに憎悪に打ちふるえ、その声はさっきとは打って変わって地の底から湧いてくるような不気味な色を帯びる。オリヴィエがオスカーと彼女の方に慌てて近づく。
「ちょ・ちょっとっ!お・おちついて・・・・」
「憎い・・・憎いわ・・・許せない!!!」
 何かが爆発するような大音響が響いた。それと同時にオスカーとオリヴィエの身体がその場から煙のように消えてしまった!リュミエールは息を呑んだ。
「あああああああっ!・・・何が起こったのです?!何をしたのです?あなたっ」
 しかし、そのセリフを受けるべき相手も既に、そこにはいなかった。リュミエールは夢の守護聖の部屋でひとり、床に崩れ落ち呆然とするしかなかった。


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