「アンタんちの庭、キレイだねー相変わらず。こうして目を閉じると水の音しかしなくって。・・・なごむねぇ〜」
オリヴィエは大袈裟にのびをしてみせた。手に茶の支度を持つリュミエールは何も言わずそれを目の前のテーブルにおく。オリヴィエは少しだけつまらなそうに唇をとがらせた。 「そんな気分じゃない、って?・・・・別にいいけど。で、なに?わざわざここへワタシだけご招待、っての」 リュミエールは腰を下ろしながらオリヴィエとは目を合わせずに言った。 「わからないあなたでは、ないはずです」 「はん、自分から言わないトコがアンタだよねぇ。ま、いいよ。つまんないこといってごまかしてるとか思われるのもイヤだしね」 「何もそんなことは」 「じゃ、さっそく本題に入ろうか。・・・・あのコのことでしょ」 「ええ」 相変わらず顔をいささか伏せて沈んだ面もちのリュミエールに、オリヴィエは小さくため息をついた。 「・・・ほーんと困ったもんだよね、あのコにも、さ。ま、感受性豊かな年頃だし?いろいろあるのはわかるけど」 「随分と意地の悪い言い方をなさるのですね、オリヴィエ。あなたにしては珍しい・・・」 「はん、アンタがワタシの何知ってるっていうの。ワタシははなからこういうヤツさ。他がどう思ってるか知らないけどねぇ」 「真実のあなたが、いかな人物であるかなど私にはわかりません。知り合って長い、ですが・・・過ごした時間の長さを基準に他人に己を見せるようなことはない」 リュミエールは皮肉めいて微笑んだ。 「私の知っているあなたとは、そういう人です」 「・・・それだけわかってりゃ上等かもね」 その笑みに呼応するように、オリヴィエもにやりと口の端を上げた。 「でもまさか、そんなアンタと女の子取り合うことになるとは思わなかったよ」
「ちっ、おせーな、マルセルのやつ!!」
「マルセルが遅れるなんて変だよな。何かあったのかもしれない」 待ち合わせの場所に現れない緑の守護聖を待ちわびて苛立つゼフェルと少しだけ不安げなランディ。その二人の視界の遠くに、小さく待ち人の姿はかけ込んできた。 「ゼフェル、ランディ!」 「おせーぞ!!なにやってんだよ!」 「ご・ごめん・・・あ・あのね、ぼく、今・・・」 全力疾走してきたらしく、息も絶え絶えである。 「どうしたんだ、何かあったのか?」 「何かって・・・もう・・・もの・・・すごいもの・・見ちゃった・・・ぼく・・」 「だ〜〜〜、まどろっこしいな、ちゃんとわかるように話せよ!」 マルセルは小さく頷いて、はずむ息を整えることに専念した。しばしの後、ようやっと静まってきたらしい。彼は今度はゆっくりと、今見てきたことの次第を二人に話し出した。 「・・・なっ、なんだって?」 あまりの内容に大声でリアクションするゼフェルとランディ。 「嘘じゃないんだ。ぼくも信じられないよ・・・まさかあの二人が・・・あの二人でそんなこと」 マルセルはこの待ち合わせに出向こうとした際に、数日前リュミエールに言付かっていた花の種のことを思いだした。約束はしていなかったのだが、届け物のひとつくらい本人がいなくてもかまわないと、気軽な気持ちで立ち寄った私邸で見たものは、夢の守護聖と水の守護聖の深刻な場面だったのだ。当然、そこに割って入ることなどできるわけもなく、とにかくここへ走り出したということだ。 「マルセルを疑うわけじゃないけど、俺には信じられないな。オリヴィエ様とリュミエール様がそんな・・・」 「しかも女がらみ、だぜ。大体誰なんだよ?その女っての」 「知らないよ、そんなの。でもホントなんだよ!ど・どうしよう、ランディ、ゼフェル〜〜」 「どうしよう、って・・・」 「そんなの決まってんだろ?」 頭を抱える二人にゼフェルは自信満々に言い放った。 「これから行こうぜ、リュミエールの私邸。こんな面白そうなこと、見逃せるか!」 「面白がってる場合じゃないよ、ゼフェル〜〜〜」 「そうだ、不謹慎だぞ!これは宇宙を揺るがすような深刻な問題なんだ」 「ならなおさら、もっと情報をつかまないと」 「知らない方がいいことってのもあるよ〜〜」 すっかり動揺するマルセルだ。 「馬鹿か、もう知らないフリなんかできねーじゃねーか!なにも今すぐどうこうしようってんじゃない、もう少し事情を知る必要があるってそれだけだぜ」 「単なる覗きとどこが違うんだよ」 「じゃ、お前はここに残ってりゃいいだろ、ランディ野郎!俺は行くぜ」 既に走り出しているゼフェル、マルセルとランディは慌てて後を追った。 |