リクエスト小説『Goodfellas, Say nothing』   02

 水の守護聖の私邸、勿論その門からなど入れはしない。鋼・風・緑の守護聖の3人は生い茂る庭の緑にもぐりこみ、腰を据えた。遠くはないが、角度的に時折からだの向きによって二人の顔が見える、といった微妙な場所。しかしここ以外に適所は無かった。どうやら声だけはクリアに聞こえるようなので、その場所に3人座り込む。
(・・・間にあったみてえだな。おーおー、二人ともマジに眉間に皺、だぜ。どうやらマルセルの言ったことも本当らしいな)
(リュミエール様、あんなにお顔が沈んで・・・ああ、僕どうしたら・・・)
(オリヴィエ様だって。・・・なんだかやけっぱちな感じだな。あんなオリヴィエ様、見たことないよ、俺は)
 気配を気取られないようにごくごく小声で呟き合う三人。しかし耳は互いの言葉よりも、夢の守護聖と水の守護聖の会話に向いていた。

「もうすぐ来るんでしょ?ここに。あの、心配性のお姫様が」
「ええ、察しのよろしいことで。先ほど予定より少し遅くなると連絡があったので、はからずもこうして二人先に、ということになってしまいましたが」
「あ、わざと時間もずらしたのかと思ってたけど。そーでもしなきゃ、ワタシが逃げるんじゃないかって先回りして。アンタならそんくらいのことやりそう」
「・・・そう考えつつもいらしてくださるとは、やはりこのことはよほど大事な一件とみえる、あなたにとっても」

(うっひょーオリヴィエのヤツ、すんげえ嫌味〜〜〜)
(酷いよ、何があったか知らないけど、あんな言い方ぁ〜〜)
(でもリュミエール様も負けてない、うーん、何だか大人な会話だなあ)
 既にスポーツ観戦でもしているような気分の茂みの3人であった。
 ランディがどもりながら言う。
(なあ・・・し・心配性の・・・お姫様、って・・・ロザリアのこと、だよな・・・)
(そうだよね、お二人ともロザリアが・・・好き・・・なのかな?それでこれから話し合いするの?なんか恐いよーそれーそーゆーことするー?僕やだよー)
 ランディの袖を掴みながら、もはや半泣き状態のマルセル。
 そんな二人を小馬鹿にしたように、ゼフェルが鼻でせせら笑った。
(オメーらって本気で馬鹿だな。ちったーアタマ使えよ。お姫様、ってのは確かにあの鼻持ちならねータカビー女のことだろうし、これから来るってのもアイツなんだろうけど、普通三角関係の男と女がいきなり雁首揃えて茶ぁ飲むかよ?俺だったらそんなことしないぜ、相手の男か、そんじゃなきゃ女か、二人で話し合う、まず。それで「心配性」とくりゃ・・・)
(あ、そうか。ロザリアは当事者じゃなくって、この状況を心配してるんだね?)
(となると・・・・)
 話の主人公は、おそらくアンジェリーク。同じ女王候補同士で親友の二人、恋愛のことを相談しあっても不思議じゃない。そうして見るにみかねたロザリアがオリヴィエとリュミエールに事の真実を確認しようと・・・?それともリュミエールが?
 事情がまだ今一つ把握しきれない。3人は再び黙り、視線を元に戻した。

「・・・そりゃ大事さ。女王候補サマだしね」
 オリヴィエは組み合わせた両手ごしに、真剣な眼差しをリュミエールに向けた。
「あのコにはいつでも笑顔でいてもらいたいって、心底思ってるよ。その為にワタシが力になれるなら、何だってしてやりたい。それはアンタも同じことでしょ?・・・最近、随分ナカヨシしてるみたいじゃない」
 リュミエールは黙っている。オリヴィエは続けた。
「まー、みんなでよってたかってアタマ撫でてあげてんのもね、あのコの為にならないし?アンタがその気なら、ワタシはそろそろ相談窓口のお役御免になってもいいかって気にもなるけど」
「・・・信じられない」
 リュミエールの声は静かに震えてさえいた。
「彼女のことをそんな風に。彼女が女王試験の不安の中、どれだけあなたを心の頼りにしているか・・・。あなたのさりげない気配りに試験の当初から随分助けられたと彼も・・・」
「やーだ、二人でそんなこと話してんの?リュミちゃんも野暮だよねえ、わかってないんだから〜。もうちょっと色っぽい話でもしたら?」
 さもおかしそうに高い笑い声をあげるオリヴィエに、リュミエールはいささか苛立った様子だ。
「私は真面目にお話しているのですよ、オリヴィエ。今回のこの件に関しては、あなたもいろいろ言いたいことはおありでしょう。あなたは夢の守護聖・・・誰よりもプライドも美意識も高い。このような成りゆきが、到底許せるものではないということも理解しているつもりです。しかし、私同様に彼女を・・・アンジェリークを思う気持ちがあるのなら、彼女にとって一番良かれとなることを」
「一番良かれ、ねえ・・・・。一人の女を二人の男が醜く争うような話が、到底あのコの為になるとも思えないんだけど、ワタシにはね」
「誤解なきよう言っておきますが、私とてあなたと争いなどしたくありません。いえ、あなたに限らず誰とも」
「ワタシは結構アンタに限って嫌って感じするけどねぇ。これが相手オスカーだったらこーまで滅入らないよ」

(うわ〜〜〜ん、そこまで言う?オリヴィエさま〜〜〜。リュミエールさまお気の毒だよぅうう)
(でもよーなんでだか気持ちわかるぜ、オリヴィエの。リュミエールと女取り合うのは俺も勘弁、だな)
(どうして?ゼフェル)
(考えても見ろよ、もし勝負に勝ちでもしたら未来永劫恨まれそうじゃねーか、ああいうタイプ。いや。恨まれてるだけならまだいい、デートの先々で必ず出会ってニッコリ笑って挨拶されたりとか、新婚家庭に毎日来て長々居座るとか、しそうじゃねえか)
(それ言い過ぎだよ・・・)
(でも確かに・・・オスカー様だったら、他にお相手もいくらでもいるし、いろいろあってもすぐ忘れそうだから、後に残すようなことにはならないってのは言えるよな)
 先輩守護聖達にむかって、聞こえないのを良いことに失礼な発言に満ちる茂みの中である。それは近くの噴水の水音にかき消されるほど小さな声であったが、相反するようにその言葉にこもる熱は熱い。目の前で繰り広げられる愛憎劇の衝撃に、既に本来なんの目的でここへ来たのかさえ忘れている3人であった。
 狭い場所でぎゅうぎゅうになりながら、まるでドラマの筋を追うように、手に汗を握りつつ彼らはオリヴィエとリュミエールの会話の逐一に引き続き聞き耳をたてる。

「ま、そんなこと言い出してもしょうがないか。こんな問題いつまでも引っ張ってるほうが馬鹿馬鹿しいし」
「私に本音をぶつけるのはかまいません、ですがロザリア・・・勿論アンジェリークもですが、彼女らの前でそのような物言いはおやめくださいね。いくらあなたがこの件に関し、日頃の余裕を失っていたとしても」
「あーら、言ってくれるじゃない。ワタシが動揺してるって?」
「違いますか」
「生憎ね。・・・・はーん、わかっちゃったワタシ」
 オリヴィエは何かに気付いたようだ。
「ワタシが余裕無いって見える程アンタがさっきから自信満々なのはさ、この筋書きがアンタの方に分があるからでしょ」
「私はそんな・・・」
「そういうふうにイイコぶるのも気に入らないね。二人の間は本音でもいいって言ったのはアンタじゃない」
 オリヴィエは強い光をその目に湛えた。
「・・・悪いけど、そんなに簡単じゃないよ。ここに素直に出向いたのも、その事を言うため」
 リュミエールは語気の強くなったオリヴィエにさして変化を見せない。どころか、うっすら微笑んでいるようにさえ見える。
「ふふ、あなたのそんな情熱家の部分を垣間みることができるとは、こうした事も悪くないことと思えてきます」
「アンタと底意地の悪い会話してんのもいーかげん飽きてきたけど、これだけは言わせてもらうよ。・・・・身を引く気はないから」

(おおおっっっ!!!)
 勿論、盛り上がりまくりの茂みの中。物語は佳境だ。
(言った!!!!オリヴィエ様っ)
(お・オリヴィエさま、なんかかっこいい・・・・)
(馬鹿、オメーがときめいてどうすんだよっ)
 で、どう出る、対する水の守護聖はっ!

「私もです」

(うお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!)
 先ほどより一段いや二段三段抜きで盛り上がりは青天井。
(やっぱそーこなくっちゃだぜーーーーーー!!!)
(リュミエールさまもかっこいい・・・)
(お二人ともなんて男らしいんだ!俺は感動だっ)
(だよなーあのオリヴィエとリュミエールがってとこが!俺は今までの見解を改めるぜ)
(ゼフェル・・・今までどんなふーに見てたのさ・・・)
 そんなツッコミは良い!物語はまだ終わってないんだっ。視線は元の場所へ瞬時に戻った。

 オリヴィエは不敵に笑った。
「へえ。じゃあ、全面対決ってわけ。これ、ロザリアが聞いたらどう思うかな」
「わざわざ事を荒立てようとしてるのはあなたですから」
「悪者はワタシ一人、って?そーいう役どころも意外と美味しいんだよね、こーいう話ってさ」
「あなたの利害云々の為に私はここにいるのではありません。すべて一人思い悩んでいるアンジェリークの為・・・。結果がすべてです。私は・・・」
「あのコに一番良かれとなることを?いい加減キレイゴトはよそうね、リュミちゃん。ワタシはそんな事は思わない。関わる以上は自分最優先さ。人ってみんなそうじゃないの?あのコの喜ぶ顔が見たいのも、それを見たいワタシがいるから成立する話。こーんな安っぽいドラマに登場するハメになったはあのコが原因だけど、やるからにはワタシのやり方も通すよ。言いたいことは言う。たとえ問題が大きくなってもね」
「オリヴィエ・・・・」
「リュミエール、アンタも。お得意の同情や遠慮はいらない」
 黙り込むリュミエール。水音だけが聞こえている。
「ゴメン、言い過ぎ。・・・大丈夫、心配しなくていいよ。これでもTPOはわきまえてる」
 オリヴィエは挑戦的な物言いをやめ、一息深呼吸した。
 そして空を見上げ、呟くように言った。

「ただ・・・・嘘はつきたくないんだ、あのコに。それだけ」

(オリヴィエさまぁああああああ〜〜〜〜〜)
マルセルはすでに泣いている。ランディも涙ぐんでいる。
(せつないなぁ・・・どっちの気持ちもわかるだけに・・・アンジェリークも辛いんだろうなあ・・・)
(そういえば、ここのところ元気無かったよね?アンジェってば)
(けっ、なーに泣いてんだよ、まったくガキだな、オメーら)
 ゼフェルの言葉にばつが悪いのか、ランディはいきり立った。
「そういうゼフェルだって目赤いじゃないか!人の事言えないだろう?」
「うるせえ、これは何度も言うが元からだーーーーー!!」

・・・・・・気付けば半身、茂みから出ていた。ランディとゼフェル、そして目を丸くするオリヴィエとリュミエールの間をすりぬける、爽やかな風。
「なにやってんの、アンタタチ」
「そのような場所にいつから・・・マルセルまで・・・」
「えっとその、あのコレはえーっっと・・・・」
 今更茂みに身を戻すわけにもいかず、硬直する3人であった。

つづきを読む
| HOME | NOVELS TOP | PROJECT:2500 |