夏の1979年に、モッズは日田(大分県)で演奏した。
盆地の蒸し暑さの中に存在する「淡水魚センター」での夏のフェスティバル。
客の殆どが、休日を家族で過ごすファミリー。
開演前。
椅子に腰掛けた北里は、シールドなしのベースを肩にかけて黙々と引き続けていた。
隣に座った後藤は、ノート(譜面?)を見ながらチューニング。
テーブルを挟んで後藤と向き合った形でブルースハープを持った森山。
ステージの横でスタンバイするモッズは、いつもよりクールだった。
そこはロックとは程遠い場所だった。
ただ、MODSの周辺だけは他と違う空気が漂っていたのは明らかだった。
期待に胸膨らませて、少しずつロックな感じに盛り上がってくる私の気持ちを
現実に引き戻すのは、時折聴こえてくる子供の笑い声やBGMで流れる演歌。シュールだった。
この日の森山の声は潰れており、かすれ気味。
カバー曲がいつもより多めに占めたセットリスト。
満席とはいえないシートには、勝手きままに走り回る幼児や
家族サービスと夏の暑さにバテ気味の大人たち。
これからライブ演奏しようというモッズにとって、それは何を意味するか。
森山は、ここは最低の場所だ、と思っていたかもしれない。
森山は、次のライブのリハーサル代わりのステージだ、と思っていたかもしれない。
予定の時間になると、モッズはステージに立った。
彼らが、それまで経験したことのないだろう最悪の環境の中で、
モッズのステージが始まった。
始まるとすぐ、会場全体の空気が変わったのを感じた。
そこには、THE MODSがいた。
そのステージは、いつもとは違うラフなサウンドで、よりライブ感が際立ち、
森山が傾倒するバンドのカバー曲のオンパレード! 極上のロックンロールだった。
- For Your Love (YARDBIRDS)
- Walkin' the dog(Rufus Thomas)--stonesもカバー
- I Need You (Kinks)
澄んだ空気をどこまでも突き抜けていくブルースハープの音色は
モッズにも、ロックにも、このイベントさえも興味なかった全ての人を魅了していた。
あれから時が随分経ったというのに、あの日の感動は忘れない。
カバー曲の素晴らしさを確信した日だったし、
ストーンズがカバーした曲をカバーするモッズのライブを体験しながら、
ストーンズの魅力を再認識できた日でもあったし、
あんなシチュエーションだったにもかかわらず、普通な感じで極上のライブを
やってのけたモッズの凄さに気づいた日でもあった。
ふと、ミック・ジャガーの言葉を思い出す。
-- 何をやるかではなく、誰がやるかが重要なんだ --
そう、何をやるかではなく、何処でやるかでもはなく、
誰がやるかなんだよね。
博多のバンドは、只者じゃないったい!
( 2006.05.31 BERO )